温室効果ガス削減が急務|SDGs目標13と企業への影響を解説
「日本は2030年度までに温室効果ガスを46%削減することを目指す」去る2021年4月22日。気候変動サミットにおける菅総理のスピーチは、国内外に驚きを持って迎えられました。SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」を語る上で欠かすことのできない「温室効果ガス削減」に対する、菅総理の発言の真意はどこにあるのか?さらに発言に対する国内外の反応を紹介した上で、各企業や個人が取り組むべき気候変動解決への初めの一歩について解説します。
SDGs13:気候変動に具体的な対策を
2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)。その13番目に掲げられた目標が「気候変動に具体的な対策を」です。現在の地球は主に温室効果ガスの排出を原因とした地球温暖化現象により、各地でさまざまな気候変動が起こり、深刻な問題が発生しています。
- 海面上昇による沿岸部・島しょ部での地形変化
- 都市部の洪水・豪雨
- 内陸部の砂漠化などによる食糧不足
- 海洋・陸上ともに生態系の損失
JCCCA(全国地球温暖化防止活動推進センター)が公表した温暖化予測でも、2025年~2030年(SDGsの目標年)周辺の上昇温度は1.5℃を超えると予測されています。
一般に気温上昇温度が2℃上がると危険ラインと言われ、先の問題などが「人間が自然と共存して耐えられる」限界レベルと考えられており、各国がそのリスクを回避しようと具体的な対策を掲げて取り組んでいるのです。
批判を集めた日本の取り組み目標
2015年にフランス・パリで開催されたCOP21(Conference of Parties 21:第21回気候変動枠組条約締約国会議)で採択された「パリ協定」では「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」との長期目標が掲げられました。
しかし、2019年にスペインのマドリードで開催されたCOP25において、日本は2030年までの温室効果ガス排出量削減の目標を2013年比で26%と発表。世界各国がより高い目標を掲げるように求めているにもかかわらず、あまりにも低いその日本の目標に対しては「日本の比較基準は後ろ向きである」と批判を集め、NGOからも不名誉な「化石賞」を受賞してしまいました。
菅首相が発表した温室効果ガス削減46%コミット
こうした状況の中発せられたものが冒頭の菅総理の発言です。閣僚が参加する地球温暖化対策推進本部で発表され、同日に米国主催の気候変動サミットでスピーチされた内容は次の通りです。
2021年4月22日のこのスピーチの主旨は、「2030年の温室効果ガス削減目標(NDC)を、2013年度比で46%削減。さらに50%を目指して挑戦する」というものでした。この数値はそれまでの目標を70%以上引き上げたものです。その対策として総理が語ったのは、主に省エネ・再エネ分野の大胆な対策、特に再エネを優先して行っていくとするものですが、原発再稼働を後回しにするというような内容はみられませんでした。これに対する国内外の主な反応は次のとおり。
- 「WWFジャパン(世界自然保護基金)」はそれまでの保守的な積み上げの範疇でのみ目標を掲げていた日本が、ようやくパリ協定に本気で向き合うことを意味しているとして評価すると歓迎の意を表明
- 「日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)」は、菅総理による日本の温室効果ガス削減目標に関する発言を心より歓迎いたしますというリリースを同日に発表
- 国際環境NGO「350.org」の日本支部「350.orgジャパン」は目標策定が不十分で、パリ協定の目標達成のためにはより高い目標設定を促したいと発表
- 若者たちによる気候変動運動「Fridays For Future Japan」は、気候変動を解決するためにはまったく不十分な数値だとの声明を発表
- 「NPO法人気候ネットワーク」や世界130ヶ国以上、1,500以上のNGOからなる国際ネットワーク組織、CAN(Climate Action Network)の日本組織「CAN-Japan」は、ようやく従来の目標に固執せず2030年目標の引き上げを決断したことは大きな前進だと一定の評価を与えつつも、その目標はまだまだ足りず、さらに目標設定だけでなく具体的な政策発表を求めている
このように評価の分かれる菅総理の発言ですが、世界第5位の温室効果ガス排出国である日本には、より大きくより具体的な目標設定が求められているのは間違いありません。
企業が取り組むべき気候変動解決への一歩
では、日本がこうした目標をクリアし、さらに国際社会へ貢献できるより高い目標を目指していくために、一企業としてできることはどのようなものがあるのでしょう。その主だったものを簡単にご紹介します。
温暖化効果ガス排出を抑える
まずは自社で排出される温暖化効果ガスの排出を抑えるための取り組みが第一に考えられます。例えばEC業界最大手の米Amazonなどは2040年までに炭素排出量をゼロにすると宣言し、電気自動車への移行を推進。こうした取り組みは各企業でも徐々に取り組んでいける好例のはずです。さらに製品の小型化・軽量化を図ることにより、輸送にかかる負荷を軽減することで排ガスの総量を減らす。製品や不用品の廃棄時は焼却ではなく生分解システムを使うなど、さまざまな施策が考えられます。
省エネを徹底する
職場の電気をこまめに消す。これだけのことでも、エネルギーの総消費量は抑えられ、総じて温暖化効果ガスの排出を削減することはできます。「たかがこんなこと」と思えることでも、その積み重ねがより良い社会を作る一歩になるというビジョンを社内スタッフ間で共有し、SDGsの理念とともに徹底して実践するのが何より重要です。
再生可能エネルギーの導入
自社で利用する電力を、これまでの化石燃料を利用した電力から太陽光やバイオマス電力といった再生可能エネルギーへ切り替えることも、SDGs気候変動解決への取り組みとしては代表的なものです。ビル内の室内環境とエネルギー性能の最適化を図るビル管理システム「BEMS(Building and Energy Management System)」の導入なども、低炭素社会を作るための不可欠な技術として期待されています。
サプライチェーン上の企業で連携する
徹底した省エネや再エネへの切り替えなどは取り組みやすい施策ですが、それ以上の取り組みとなれば中小企業などではなかなか踏み出せない場合もあるでしょう。そういった自社だけで完結できない技術開発なども、大企業と提携したり、同じサプライチェーン上にいる中小企業同士が連携することで、新しいビジネスチャンスを創出することにもつながります。
まとめ
菅総理が発表した日本の「温室効果ガス削減46%コミット」は、気候変動解決に対する回答としてはまだまだ見通しの甘い目標かもしれません。しかし、それでもSDGs13達成のためには必要な第一歩となります。地球環境に対するアプローチは簡単には行えないと思いがちですが、各企業、各個人としてでも身近なところから取り組んでいくことは可能です。自社、あるいは自身ができることを1人ひとりが考えること。それが地球へのリスクを最小限に減らし、同時に新たなビジネスチャンスを創出することにつながる道筋となります。