いま北欧で見直される、サステナブルなクリスマス文化
SDGsランキングで常に上位を占める北欧諸国では、サスティナビリティの観点からクリスマス文化と向き合い、ユニークな取り組みが積極的におこなわれています。
本記事では、北欧諸国のクリスマスにまつわる話や、クリスマスに関連した環境問題を踏まえ、実践しているサスティナブルな取り組み事例についてご紹介します。
北欧のサスティナブルなクリスマス事情から、季節の行事と環境問題の解決を楽しみながら両立する北欧の姿勢を学んでいきましょう。
北欧のクリスマスとは?
ほかのヨーロッパ諸国と同様に、北欧では11月の半ばごろから年内にかけて、さまざまな場所でクリスマスマーケットが開かれます。クリスマスに向けて食品や雑貨といったギフトが並ぶほか、クリスマスマーケットを訪れた人々を楽しませるための温かい飲み物やスナック、お酒などが販売されます。
暗く寒い季節の中、北欧の人々はクリスマスの時期をとても楽しみにしていて、クリスマスマーケットがはじまるとすぐに多くの客で賑わいます。
そんなクリスマスマーケットが初めて記録に残されたのは、1298年のオーストリア・ウィーンで行われた野外マーケットでした。キリストの誕生日までのアドベント期間中に、寒い冬に備えて肉などの生活必需品を販売する目的で開かれたのが始まりといわれています。
今でこそドイツのクリスマスマーケットが有名ですが、ドイツでの初めてのクリスマスマーケットが開催されたのは1世紀ほど後の話。北欧諸国には、19世紀の終わり頃から20世紀諸島にかけて、クリスマスツリーやクリスマスマーケットの文化が浸透していきました。[1]
今では多くの人々にとって、1年のうち最も暗い季節を、数々のツリーやイルミネーションで明るく照らしてくれる、欠かせないイベントのひとつになっています。
クリスマス文化が抱える3つの環境問題
明るく華やかな印象の強いクリスマスの文化ですが、実は地球環境への負担を考える上で無視できない問題を抱えています。
今回は「プレゼントの包装」「過剰なイルミネーション」「クリスマスツリー」の3つの観点から見ていきましょう。
プレゼントの包装
クリスマスに欠かせないアイテムといえば、プレゼントです。
北欧をはじめとするヨーロッパの多くの国や地域では、家族や恋人だけでなく、親戚・友人といった幅広い交友関係にある人々へプレゼントを贈る習慣があり、近年はプレゼント用のギフト商戦も激化しているため、プレゼントの包装にもこだわったアイテムがよく見られるようになってきました。
しかしプレゼントのほとんどには、紙やプラスチックでできた包装が使用されており、その生産や廃棄の過程において地球環境に大きな負担をかけているのが現状です。
環境団体の報告によると、
といった問題が問題視されています、
一度包装を破いてしまえば再利用されることはほとんどないまま、すぐにゴミ箱行きになってしまうのはあまりにももったいなく、また地球環境へ大きな負担をかけていることが想像できますね。
過剰なイルミネーション
クリスマスシーズンは、きらびやかなイルミネーションが町じゅうを灯し、暗い冬でも人々の気持ちを明るく照らしてくれる時期です。
しかし、イルミネーションに使用される電飾は多大な電力量を要し、電力源となる石油や石炭をいつも以上に消費します。もし電力にこうした化石燃料を使用している場合、温室効果ガスを排出し、結果として気候変動に拍車をかける事態となってしまうのです。
また、環境問題に関する用語の中に「Liight Pollution(ライト・ポリューション:電灯による環境汚染)」という言葉があります。
イルミネーションが町じゅうに光るクリスマスの時期は特にこのライト・ポリューションが増大し、人間や周辺に住む生物たちの睡眠や活動に悪影響を及ぼしているのです。
NASAの調査によると、アメリカにおいて感謝祭(11月下旬に行われる盛大な祝い事)から年末にかけて、ライト・ポリューションが大幅に増加し、最大で通常時期の50%程度も強い光を目にする機会が多くなるそうです。[4]
これはあくまでもアメリカの事例ですが、年末にかけてクリスマスの行事が立て込む北欧においても、似たような結果が得られることが予測できます。
クリスマスツリー
クリスマスシーズンになると、北欧の多くの家庭では「今年のクリスマスツリー」を探しに森や市場へ出かけます。お気に入りの木を見つけるとその木を森で伐採したり、業者が仕入れた木の中から好きな形を見つけて購入するのです。
クリスマスツリーとして使用されるのは、ノルウェーをはじめとした国で育てられたモミやトウヒの木です。家庭でも本格的なクリスマスムードを楽しめ、多くの人が本物の木をクリスマスツリーに選ぶ傾向があります。
ただ問題は、クリスマスが終わった後の話です。スウェーデンのストックホルム交通局によると、スウェーデンでは毎年およそ300万本ものクリスマスツリーが廃棄されています。[5]
筆者もよく、クリスマス以降の数日間で外を歩いていると、公共のごみ収集所の付近に、クリスマスツリーとして使用されたであろう木々が転がっているのをよく見かけます。
クリスマスツリーとして使用される木の樹齢は10年前後といわれ、決して小さくはないサイズの木もよく目にします自然資源を利用する以上、廃棄の仕方や活用法にも目を向ける必要があるのです。
また、プラスチックのクリスマスツリーを使う家庭もあるようですが、デンマークの環境団体によると、プラスチックのクリスマスツリーの平均使用寿命は5~6年程度とされる一方、本物の木と同等の二酸化炭素排出量にするには、少なくとも20年は使い続けないといけないといった報告がされています。
いずれにせよ、環境へのインパクトを考えると、クリスマスツリーの過剰消費は地球に大きな負担をかけていることが分かります。
北欧のサステナブルな取り組み
多くの人々にとって欠かせない伝統行事だからこそ、SDGsランクの上位にいる北欧諸国は、従来のクリスマス文化を見直し、サステナブルな取り組みを積極的に行っています。
今回は、いくつか実例を紹介し、北欧のクリスマスからサスティナビリティのヒントを知っていきましょう。
エコなラッピング方法として日本の風呂敷
先ほどご紹介した通り、ギフトのラッピングに使用される紙やプラスチックといった資材は、環境に大きな負担をかけるため問題視されています。
そんな中、2023年ファッション誌VOUGEの北欧向けウェブサイト・VOUGE Scandinaviaでは、エコなラッピング方法として日本の風呂敷を紹介しました。
近年、インテリアのトレンドとして、日本と北欧のシンプリシティ哲学をかけ合わせた「Japandi(ジャパンディ)」のように、北欧諸国と日本の文化的な価値観や考え方には共通するものがあるとして、各方面で話題になっています。
その一環として、今度は日本の伝統的な包装文化である「風呂敷」が注目を集めているのです。
もともと風呂敷は、日本の人々が土産物や購入品・自身の持ち物を包んで持ち運ぶために生まれた文化ですが、近年は風呂敷として用いるテキスタイル自体も「ギフト」と捉え、プレゼントの包装として活躍した後も、手ぬぐいや裁縫に使う布地の一部として利用できるほか、再度ラッピングとしてリユースできる点が、北欧の人々の心をつかんでいます。
また紙やプラスチックとは異なる素材感が「特別な贈り物」を演出するとして、布地を多く生産するアパレルブランドなどが、工場の残布を風呂敷に再利用する事例も見られるようになりました。
日本の伝統文化が、シンプルでミニマルなスタイルに昇華され、エコなラッピング方法として北欧で紹介されるのはうれしい限りですね。
環境にやさしいイルミネーションの電力
膨大な量の電力を消費するイルミネーションにも、さまざまな見直しが行われています。
電球をLEDに変えるのはいうまでもないことですが、2020年に北欧バルト三国・リトアニアで点灯されたクリスマスツリーの取り組みにも注目が集まりました。
毎年さまざまなクリスマスツリーのデザインが欧州の中でも注目を浴び、2024年は「欧州クリスマス都市(EU Christmas Capital)」にも選ばれたリトアニアの首都・ヴィリニュスのクリスマスマーケットでは、広場の中心部に大きなクリスマスツリーが建てられることで有名です。
コロナ禍の真っ最中だった2020年のクリスマス時期に点灯されたクリスマスツリーには、環境に配慮して古いコーヒーかすを電源にした装飾を展開。約4キロメートルにも及ぶイルミネーションは、すべてクリーンなエネルギーによって賄われました。
デザインも先進的で、24メートルの高さを誇るツリーは、電飾が巡らされた四角形のパネルを組み合わせてできていました。
外から見るとモダンでシンプルですが、パネルで囲まれたツリーの内部には、本物の木でできた小さなクリスマスツリーが。当時、ヴィリニュスに来たくても来られなかった人々に対し「今は辛い時期だけど、いつかまた来られる希望を忘れないで」というメッセージを表現したそうです。
鉢植えでクリスマスツリーを育てる
伝統的に、北欧では毎年本物の木からクリスマスツリーを選んできたため、多くの木々が切り倒されてきました。その影響で、森林地帯の生態系の崩壊や土の質の悪化による地すべりといった自然災害の発生に繋がっています。
そうした事態を踏まえ、近年の北欧ではクリスマスツリーを伐採するのではなく、植木鉢に木を植えてクリスマスツリーを「育てる」といった取り組みが広がってきました。
鉢植えに入ったツリーは、室内のグリーンの一部として毎日お部屋の雰囲気を明るく演出してくれます。クリスマスの時期には、好きなデコレーションを施せば立派なクリスマスツリーに早変わりです。
もし木が大きく育ちすぎてしまった際は、庭があれば外に植え替えるか、難しければ提携している環境団体に引き取ってもらうことも可能です。引き取られた樹木は植樹され、自然の一部として地球の環境づくりに貢献できます。
クリスマスを通して森の再生プロジェクトに貢献できる、すばらしい取り組みですね。
クリスマスツリーで魚たちの住処を守る
クリスマスツリーにおける他の取り組みとして、スウェーデンの海に関する事例が挙げられます。
スウェーデンの旅行会社やクリスマスツリーの販売会社らが協働するプロジェクトでは、毎年1月に使用済みかつ農薬が使用されていないクリスマスツリーを回収し、重石を付けてストックホルム周辺の海に沈める取り組みを行っています。
このプロジェクトによって、2018年の調査では実際に海の生き物たちが、沈めたクリスマスツリーを拠点にし、遊びや繁殖の場として活用していることが報告されました。
通常、クリスマスツリーは回収された後バイオマス燃料として燃やされてしまうケースが多い中、海の生態系を守るユニークな取り組みにも利用されていることが分かります。
まとめ
長い間、多くの人々に親しまれ欠かせない季節行事となっている北欧のクリスマス。伝統文化として尊重する点を残しつつ、現代社会が抱える環境問題の解決に真摯に取り組む姿勢は、サスティナビリティに重点を置きながらもイベントをめいっぱい楽しみたい!という希望に光を灯してくれます。
サスティナブルと楽しい行事や文化が両立できるということを、北欧の取り組みから学び、日々の暮らしや社会での活動に生かしていきましょう。
参照
[1]The Christmas Tree and Scandinavia: A cultural journey through the Nordic Countries
[2]The environmental impact of the holiday season
[3]The Environmental Impact of the Holiday Season – Planet Home
[4]Reality check: How bad are Christmas lights for the environment? – National | Globalnews.ca
[5]Stockholmers urged to recycle Xmas trees – Radio Sweden
A brief history of Christmas markets
The Environmental Impact of the Holiday Season – Planet Home
In Vilnius, a surreal tree for a surreal year – LRT
Unwrapping the Scandinavian Christmas Tree Tradition – Scandi Style Interiors
Christmas trees saves fish habitats in Stockholm