中東のサステナブルな観光開発。SGIやバーレーン空港の取り組み
中東の観光産業は前例のない成長を遂げています。
国連世界観光機関(UNWTO)が発表した2023年の世界観光指標(World Tourism Barometer)によると、2023年に中東*を訪問した外国人観光客数は約8,630万人で、新型コロナ禍前の2019年に比べて22%増加しました。
特にサウジアラビアは2019年に比べて56%増加と好調でした。世界全体および欧州、米州、アジア太平洋などの各地域でも外国人観光客の減少がみられるなか、中東は地域別で唯一、2019年の水準を超えました。(2024年1月19日時点)
参考:International Tourism to Reach Pre-Pandemic Levels in 2024
本記事では、中東各国がどのような取り組みを行って観光産業の目覚ましい発展を実現したのかを紹介します。
*UNWTOによる本指標で中東に含まれるのは、バーレーン、エジプト、イラク、ヨルダン、クウェート、レバノン、リビア、オマーン、パレスチナ、カタール、サウジアラビア、シリア、アラブ首長国連邦(UAE)、イエメンの14か国
中東でのサステナブル観光の重要性
世界中でCovid-19規制が緩和されてから年月が経ち、すべての観光関連産業で継続的に観光消費需要が増加しています。その中で、サステナブルな観光を促進することが世界全体で重要視されています。
ブッキングドットコム の「サステナブル・トラベル」に関する調査結果およびエクスペディアグループの「持続可能な旅行に関する意識調査」(いずれも2022年6月)によると、
「環境への影響を抑えるためなら追加料金を支払っても構わない」
「環境負荷低減に貢献するため、実際にサステナブルな宿泊施設に滞在した」
「訪れた場所をより良い状態にして帰りたい」
などの意見がみられ、世界全体において、よりサステナビリティへの配慮や意識が高まっていることが明らかになりました。このサステナブル観光の要望は中東への旅行者にも該当します。
中東は、広大な砂漠から美しいビーチや山々まで多様な自然に恵まれ、独特の歴史的建造物や遺跡も所有しています。自然環境の保全と歴史文化の保護は中東における2つの主要な目標であり、サステナブル観光を実践すべき観光地であるといえるでしょう。
中東サステナブル観光の取り組み
中東のサステナブル観光の取り組みを3つ紹介します。
ロタナホテル&リゾート
中東を中心に展開するリゾートホテルグループ、ロタナホテル&リゾートでは、気候変動による影響を削減する取り組みを強化し、持続可能なサービスの提供に注力しています。
エネルギーと水の消費量を減らし、クリーン テクノロジーを導入して運用効率を最適化する取り組みを続けています。同グループは、グローバル コーポレート サステナビリティ プラットフォーム「ロタナ アース」の一環として、リサイクル可能な廃棄物を8%増加し、埋め立て廃棄物を17%削減し、電力消費量を8%削減しました。(2023年3月時点)
ヨルダンにあるセントロ マダ アンマンホテルは、ロタナ ホテルとして初めてエネルギー源をほぼ太陽エネルギーのみに依存するホテルです。客室194室とスイート10室を備えるホテル全体への電力を、主に太陽光発電システムや省エネ照明システムのみで運用しています。
同ホテルは施設全体で紙とプラスチックのリサイクルポリシーを遵守しており、地元経済の支援、環境保護、埋立地への負担軽減の手段として、リサイクル用の固形廃棄物を収集する非営利団体であるグリーンホイールズ(Green Wheelz)を支持しています。売上金は、障害者、脳性麻痺の子供たちの支援、幼児教育のために寄付されます。
また、紙を使用しない電子チェックイン設備を備えており、近い将来にプラスチックフリーになるよう取り組んでいます。環境に配慮した慣行を推進し、ホテルが持続可能性のモデルになれるよう取り組んだ結果、同ホテルは、厳格な環境基準を順守する観光施設に与えられる国際エコラベルである「グリーン キー認証」を取得しています。
これらの取り組みに加えて、ロタナホテルではUAE(アラブ首長国連邦)の施設全体で、朝食に持続可能な地元産の食材を使ったメニューを新たに導入しました。オーガニック農場や地元農場から仕入れたUAE 産のケージフリーの卵、多彩なビーガンメニューなどの充実した朝食を楽しむことができます。(2023年3月時点)
セントロ マダ アンマンホテルの詳細はこちら:Centro Mada Amman • Business Hotel in Amman
サウジ・グリーン・イニシアチブ(SGI)
2019年9月に日本人を含む一部の外国人に観光ビザの発行が正式に認可されて以降、一般の旅行者も気軽に行けるようになり、旅行者数が増えているサウジアラビア。美しい紅海や聖地メディナ、世界遺産アダイン・サーレ遺跡などを訪れるツアーの人気は高いです。
サウジアラビアは、自然生態系の保護活動を積極的に行っています。気候変動への対応を目的としたサウジ・グリーン・イニシアチブ(SGI)が2021年に立ち上がりました。環境保護、炭素排出量の削減、クリーンエネルギーの使用の促進、植林と土地の回復、サウジアラビアの陸地と海の保護という包括的な目標を持っています。
サウジアラビアは、SGIの下、2030 年までに陸上および海洋地域の 30% を保護することを約束しています。すでに80 を超える取り組みが開始され、日々進歩が続いています。
一例を挙げると、陸地と海の保護のために保護区域を監視し、生物の生息環境の現状の評価・追跡を行っています。重要な生態系と希少な種を保護するために陸上および海洋保護区域のカテゴリーと種類を決定し、専門家と協議して区域ごとのプランを作成して活動を行います。現地を訪問し、航空写真やリモートセンシング技術を用いて、陸地・海洋保護区域の境界を定めています。
本プログラムでは保護区域の適切な管理を確実に行うため、担当スタッフの採用とトレーニング実施のための予算を確保するなど、地域での雇用機会の創出にも役立っています。
この活動により、サウジアラビアの唯一無二の生態系である豊富な野生生物と手つかずの自然景観が今後も貴重な観光資源であり続けることでしょう。
サウジ・グリーン・イニシアチブ(SGI)の詳細はこちら:Saudi Green Initiatives
バーレーン国際空港
航空業界でもサステナブルな動きが広がっています。バーレーン国際空港では、2050年までに温室効果ガスの排出ゼロを達成することを優先事項としています。
旅客ターミナルビル、立体駐車場は、LEED 認定*の材料と技術を使用し、エネルギー効率の高いシステムが導入されており、気候変動に具体的な対策を (SDG 13)、住み続けられるまちづくりを(SDG 11)、つくる責任使う責任 (SDG 12) に関連する国連の持続可能な開発目標に合わせて運営しています。
持続可能な建築設計技術の実装と、ターミナル全体にわたるエネルギー効率の高いシステムの組み込みによって炭素排出量の削減を実現し、業界基準を満たす従来のターミナルと比較して、エネルギー消費を 25% 削減(年間 12,565 トンの CO2 排出量の削減に相当)することができました。この取り組みによってLEED ゴールド認定を受けています。
*LEED認証:人や環境について考慮した建物(グリーンビルディング)を評価する国際認証制度
また、廃棄物リサイクルの処理方法を改善し、バーレーン国際空港の敷地内にある集中廃棄物管理施設内で廃棄物を有効利用するための調査を行い、廃棄物を埋立地に転用する取り組みを実施しました。
これらの持続可能性の取り組みの成果が国際空港評議会(ACI)*に認められ、適切な未来に向けて進歩を推進する航空業界のリーダーを称えるACIサステナビリティアワードにて、ACI グリーン空港認定プログラム 2022 炭素管理におけるシルバー賞、ACI グリーン空港認定プログラム 2023 使い捨てプラスチックの排除におけるシルバー賞など多数の賞を受賞しています。
*ACI:世界の空港や空港ビルの管理者または所有者を会員とする国際機関
バーレーン国際空港の詳細はこちら:Corporate Portal
最後に
気候変動は地球全体の脅威です。中東は空気が乾燥して雨がほとんど降らない地域が広く、平均気温の上昇や熱波の影響を受けやすい地域です。
過酷な環境の変化を受けながら、気候変動対策を実施することでサステナブル観光の発展につなげてきました。この持続可能な観光の新しい基準を確立した中東は、観光の未来を形作る取り組みで世界をリードしているといえるのではないでしょうか。