リトアニア伝統のサウナ「ピルティス」とは?ウェルビーイングの効果を紹介
近年、日本でもサウナがブームとして盛り上がっていますが、北欧バルト三国・リトアニアで古くから親しまれている「ピルティス」を知っている人は、そう多くないかもしれません。
北欧のサウナといえば、フィンランドが有名です。しかし、リトアニアのピルティスは通常のサウナとは異なり、多くの健康効果が期待できるだけでなく、サウナマスターの存在や植物の力によって、独特の世界観と不思議な解放感を体験できます。
今回はリトアニア式のサウナ・ピルティスについて、どのように行われるのか?や、ピルティスによる心身へのメリットについてお伝えします。
記事の後半では、実際にリトアニアを訪れる際のおすすめスポットや、自宅で実践するためのヒントもありますので、ぜひ最後まで読んでみて下さい。
リトアニアのピルティスとは?
リトアニア語でサウナは「Pirtis(ピルティス)」と呼ばれ、人々の間で親しまれています。
多くはスチーム式のサウナで、あまり室温を高くしすぎず60度程度に保つのが特徴です。
はじめは乾燥していますが、熱した石の上に水をかけて蒸気を発生させることで、スチームを作り出します。
もうひとつ、リトアニアのピルティスで特徴的なのは、古くから民間医療で使用されてきた植物を束にしてヴィヒタ(Vihta)と呼ばれるウィスクを作り、身体を叩いたりなでたりしてマッサージする点です。
ヴィヒタは主に白樺、柏、菩提樹、ジュニパーといった、リトアニアの森に自生する樹木の枝を集め、複数種を束ね合わせて手づくりされます。
リトアニアのピルティスの起源
リトアニアの歴史をさかのぼると、12世紀末にヨーロッパで最後にキリスト教を受け入れた過去があります。少なくともこの時代以降、ピルティスは主に農民の間で継承されてきた習慣です。
それまでの時代に関しては文献がほとんど残っておらず不明な部分も多いとされるピルティスですが、多くの口頭伝承が受け継がれていることから、12世紀よりもずっと前から存在する古い習慣であると考えてよいでしょう。
ひとつの証拠として、リトアニアでかつての首都であった町・ケルナヴェでは、14世紀ごろまでに使用されていたと見られるスチームバスとヴィヒタが見つかっています。
また、16世紀から18世紀の間には、キリスト教の文化と融合した新しい習慣も生まれました。例えば、キリストの誕生前日とされるイースターマンデーやクリスマスイブには、人々が集まってサウナに入る習慣があったといいます。
ソ連からの独立を経た1990年以降、リトアニアの伝統文化としてピルティスを復活・継承する動きが活発になり、2008年にはリトアニア・バス・アカデミーが誕生しました。
ピルティスに欠かせない「ヴィヒタ」の誕生
ピルティスに不可欠な道具であるヴィヒタは、かつて寒い冬を過ごしたリトアニア人たちの知恵の結晶ともいえるアイテムです。
寒い冬の間、身体を温めるためにサウナに入る習慣があるリトアニアで、素手のみでは背中までケアが行き届かないため、植物を束ねたヴィヒタで肌のターンオーバーや血流促進といった健康効果を狙ったのではないかといわれています。
日本人にも通じる「自然崇拝」の感覚
先ほどお伝えしたように、リトアニアはヨーロッパで最後にキリスト教を受け入れた国であり、キリスト教の布教以前は自然崇拝が暮らしの中で身近な存在でした。
日本にも、あらゆる場所に神様が存在する「八百万の神」という概念がありますが、リトアニアも、主に自然に関するさまざまな神様が存在すると信じられてきました。
例えば、水に関連するLaumesという女神の話が挙げられます。Laumesはサウナをこよなく愛する神様で、時には出産中の妊婦の横に立ち、新生児の運命を決めると言い伝えられています。
Laumesが入ったあとのサウナに蒸気がよく立つようにと願い、リトアニアではサウナ部屋にヴィヒタをおいておく習慣があります。
このように、自然が身近なリトアニア人だからこその感性が光るピルティスは、同じような感覚を持つ日本人のわたしたちにとって、どこか共感を覚える部分があるかもしれません。
他国のサウナとの違い
サウナ自体は、フィンランドやロシア・ほかのバルト三国をはじめ、北欧エリアに古くから伝わる習慣です。
リトアニアのピルティスはラトビアのピルツ(Pirtz)と、特によく似ているといわれています。
サウナマスターが執り行うピルティス
ほかの北欧諸国と異なり、ピルティスが特徴的だといわれるのは、サウナマスターが執り行う儀式のような側面でしょう。
伝統的なピルティスの場合、冬から春の4つのセクションに分け、4時間ほどかけて行います。
ヴィヒタでのウィスキング、塩や蜂蜜・琥珀を使ったマッサージを施しながら、サウナ部屋と外を行き来しつつ、ゆっくりとピルティスの世界を堪能します。
最後に冷水で身体のほてりを取ると、まるで別人に生まれ変わったかのように心身がリラックスできるのです。
リトアニアのピルティスは2020年、ユネスコによって国の無形遺産に登録されました。
リトアニアの人々にとってのピルティスの役割
古くからピルティスは、リトアニアの寒い冬を乗り越えるため、身体を温める手段として親しまれています。
儀式的な側面もあり、古来から誕生日や結婚式といったライフイベントの際にも、ピルティスが行われていました。
女性にとっては、村人同士が集まってさまざまな情報や知識を交換する場、また出産の場としてもピルティスが利用されていました。日本でも温泉などで「裸の付き合い」がありますが、リトアニアではピルティスを通じた親密なコミュニケーションが存在したのです。
サウナとしての役割だけでなく、農村部ではかつて、リトアニアの人々にとって欠かせない素材のひとつ・リネン(亜麻)の製造工程にも、しばしばサウナが用いられていたといいます。
日常生活のさまざまな場面において、ピルティスは人々に必要不可欠な存在であることが伺えます。
ウェルビーイングへの影響
身体を温めては冷やし、を繰り返すピルティスには、ウェルビーイングにおいてさまざまな影響があるといわれています。その具体的なポイントを見ていきましょう。
サウナが体に与える主な健康効果
サウナが身体に与える主な健康効果として、次のようなものが挙げられます。
- 血流の促進による肩こりの解消
- 汗をかくことで皮膚上の老廃物を排出し、疲労を癒す
- サウナと冷水浴(外浴)を繰り返すことで、血管の拡張を促し身体を温める
- 自律神経を刺激し、自律神経の失調の改善に役立つ
また、2017年のフィンランドで行われた研究によると、週に4~7回サウナに行く中年男性は、週1回程度の人に比べてアルツハイマーの発症リスクが65%減少することが分かっています。
定期的にサウナに入ることで、健康効果がより一層期待できそうです。
メンタルヘルスとウェルビーイングの向上
2019年に発表されたオーストラリアの研究結果によると、月に5~15回サウナを利用する人は、そうでない人に比べてストレス軽減、痛みの軽減などメンタルヘルスの状態がよいことが示されました。
サウナを体験したことのある人の中には、「なんとなくそう感じられる」といったこともあるかもしれませんが、学術において確かなメンタルヘルスへの効果が証明されているのです。
ピルティス独自のウェルビーイング効果
ピルティスはほかのサウナに比べ、60度程度とあまり高くないのが特徴です。
したがって、低温のサウナ室にゆっくり入っていると、リラックス効果が得られ、睡眠の質が向上するといわれています。
またウィスキングを使った施術を受けると、植物の束による刺激を受け、血流や老廃物の促進につながります。
ピルティスでは休憩時やサウナ後にハーブティーが出されることがありますが、例えばウィスキングにもよく使われる菩提樹(リンデン)は、りんごのような甘くさわやかな香りから、花や葉は身体を温め、睡眠の質をよくするお茶としても知られています。
植物の力を上手に利用するピルティスだからこそ、独自のウェルビーイング効果が生まれるのです。
リトアニアのピルティス体験をする方法
ここまで、リトアニアのピルティスの魅力をお伝えしてきましたが、読者のみなさんの中には「ぜひ体験したい!」という人も多いのではないでしょうか。
次では、リトアニアのピルティスを実際に体験するための方法をお伝えします。
いうまでもないことですが、最も確実なのは、リトアニアまで足を運ぶことです。リトアニアでは全国各地にピルティスを体験できる場所があり、マスターによって施術のスタイルも異なります。
今回は、その中からいくつかの場所をピックアップしてご紹介します。
リトアニアのピルティス体験ができる場所
伝統的なサウナ小屋と、そばにある池や湖での例水浴を楽しみたいなら、都市郊外や地方でピルティスを体験するのがおすすめです。
リトアニア西部に位置する「Angelų malūnas」では、古くからの手法に則った丁寧な施術を受けられます。自然公園の中に佇むサウナ小屋で、静かにリラックスしてみたい人におすすめです。
宿泊しながらゆっくりとピルティスを楽しみたいなら、ホテルやコテージの付いたサウナ小屋がよいでしょう。首都ヴィリニュスから車で1時間以内の場所にある「Jazz Villa」では、古来式のスチームサウナを体験できます。事前に予約をするとサウナマスターによる施術も受けられるのでぜひ試してみてはいかがでしょうか。
どうしても町から離れられない、車の手配が大変、という人には、ヴィリニュス市内にある公衆サウナがぴったりです。中央駅からバスで20分ほどの距離にある「Ivãnas Muša Gongã」は、日替わりでさまざまなマスターが行うプログラムに参加できます。一度に最大14人が参加するため、ピルティスを通じて思いがけない出会いがあるかもしれませんね。
ピルティスを家庭で再現するためのポイント
とはいえ、実際にリトアニアまで足を運ぶのは、そう簡単なことではありません。そこで次では、家庭のサウナやお風呂場で、少しでもピルティスの雰囲気を味わうためのポイントを、いくつかお伝えします。
ポイント1:植物やハーブを取り入れる
もし身のまわりにハーブや植物があれば、1種類または複数種類を束ねておきましょう。部屋に置いておくだけでも、空間全体が良い香りに包まれて、ピルティスのムードが高まります。
またピルティスでは、施術する人によって精油を用いたアロマテラピーで施術するので、お風呂や蒸気に使用する水の中に、お気に入りのエッセンシャルオイルを混ぜてもよいでしょう。
休憩の際やサウナ後には、身体を急激に冷やさないために、あたたかいハーブティーを飲んでリラックスしてみて下さい。
ポイント2:サウナの温度は低めがベター
ピルティスは、通常のサウナに比べると温度が低く、60度程度、高くても70度までが普通です。
1回に付き15~20分ほどサウナに入り、冷水シャワーや水風呂、冷たい外気に当たって身体を冷やしてください。その後、またサウナに戻って身体を温めて、を繰り返します。
公衆の温度が高いサウナでは、下段に座ると比較的温度が低いのでおすすめです。
ポイント3:ゆっくり身体をマッサージをする
ピルティでは、リラクゼーションや儀式的な意味も込めて、植物の束を使って身体を叩くウィスキングや、蜂蜜・塩などを身体に塗布したマッサージを行います。
ひとりでももちろんOKですが、できれば複数人で行い、お互いの身体をウィスキング・マッサージし合うとよいでしょう。
誰かに施術してもらうことで、より全身の緊張をほぐし、リラックスしやすくなります。
まとめ
ピルティスは古くからリトアニア人の生活に密接し、日頃のケアや特別な儀式として親しまれてきました。
サウナマスターによって温度と湿度・ムードが創り出され、植物や自然の恵みを堪能できるピルティスでは、リラックス効果だけでなく心身の浄化を体験できる特別なひとときを過ごせます。
ぜひリトアニアを訪れた際は、ピルティスを体験してみて下さい。終わったあとには、きっと健康でいきいきとした自分の姿に驚くことでしょう。
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