サプライチェーンの透明化とビジネスにおける人権問題への取り組み
私たちが普段食べているもの、雑貨、服は誰が作っているのか。どこから来ているのか。フェアトレードの商品を目にする機会が日本でも増えており、また「エシカル消費」という言葉も広がりを見せるほど、消費者の意識は徐々に変わっています。
児童労働・低賃金など、チョコレート産業全体の改革に乗り出したオランダの企業をはじめ、サプライチェーン上の人権問題に取り組んでいる海外企業を紹介します。
人権問題とビジネスの両立
開発途上国で生産されるカカオ豆やパーム油などの生産過程では、過酷な労働環境や低賃金が問題として指摘されています。この状況を改善し、適正な対価を払うべくフェアトレードの取り組みが始まりました。
しかし、問題解決への機運が高まってはいるものの、原材料や製造過程など発展途上国の実情は消費者に届きづらい側面があります。こうしたサプライチェーン上の問題をあぶりだし、 原料から消費者に届くまでの過程を透明化していくことは、企業の責任といえます。
児童労働の撲滅・サプライチェーンの透明化に挑む
近年、投資家や企業の関係者(ステークホルダー)だけではなく、一般消費者もCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)活動に、高い関心を示しています。今や環境問題や人権問題に取り組む姿勢は単なる企業のイメージアップではなく、経営にまで影響を及ぼすようになりました。
実際に社会的な取り組みや問題解決を消費者に訴えることで共感を得て、飛躍している企業があります。世界の3社の事例を見てみましょう。
Tony’s Chocolonely Nederland B.V(オランダ)
チョコレートの原料であるカカオ豆の生産量の60%を占めるガーナとコートジボワールでは、就労している156万人もの子どもが違法に働かされ、不当な低賃金や劣悪な環境での就労を強いられています。こうした状況を根本から改善しようと立ち上がったのが、オランダのチョコレート会社「トニーズチョコロンリー」(以下、トニーズ)です。
カカオ農家は小規模の家族経営農園であることが多く、カカオ豆は不当に安く取引されてきました。生産者の収入となるのは、ヨーロッパで売られているチョコレートの価格のわずか6%以下です。多くが貧困レベル以下での生活を余儀なくされ、生活苦から子どもが人身売買の被害や学校に行けず働かされるという悪循環が起こっています。トニーズは、フェアトレード認証のカカオ・砂糖・はちみつを使用するだけでなく、独自のプレミアム分を上乗せして生産者に支払い、生活改善に積極的に取り組んでいます。
トニーズは2005年に設立後、2012年には生産農家からカカオ豆の直接買い付けを開始しました。2020年にはオランダ国内で約20%のシェアを獲得し、オランダ最大のチョコレートブランドに躍り出ました。現在では海外にも展開し、日本を含む26カ国で販売されています。
「世界中のチョコレートを100%奴隷労働に頼らないものにする」という目標を掲げ、問題に真っ向から立ち向かうトニーズは、社会の改革とビジネスでの成功が両立することを示しています。
Unilever PLC.(イギリス)
世界中のあらゆる地域に支店を持ち、洗剤・ヘアケア・食品などを扱うユニリーバは、サプライチェーン全体を通じて人権を尊重する取り組みを行っています。
ユニリーバは、製品の原料を栽培する農家から、製品を販売する小売店に至るまですべての人の人権を尊重し、同社に関わるサプライチェーン上のすべての人の生活水準を上げることを公約しています。世界中の56,000にも及ぶサプライヤーと連携し、農家の収入の増加を図っています。2025年までに先住民族・女性・障がい者・LGBTQI+などの人を含むマイノリティ・社会的弱者への包摂的な支援に、年間20億ユーロを投じると表明しています。
また、製品に使われているパーム油は、カカオ豆と同様、長年児童労働や劣悪な労働環境が問題視されてきました。ユニリーバは国際認証RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)発足時から活動に参加し、認証を受けたヤシの実を製品に使用することで環境問題や児童労働・違法な就労環境を容認しない姿勢を示しています。
パーム油の問題についてはこちら▼
Nestlé Ltd.(スイス)
スイスに本社を置くコーヒーやチョコレートで有名なネスレは、4つの柱で人権を尊重する取り組みを行っています。
・事業運営とサプライチェーンにおける人権への影響を評価し対処すること
・主要なカテゴリーにおける児童労働の根絶
・全社員とステークホルダーがコンプライアンス違反の疑いを容易に報告できる体制の構築
・腐敗と賄賂に対抗
2009年からは「ネスレカカオプラン」を通じ、14万9,443人の子どもたちを児童労働のリスクから保護するために支援を行い、また53の学校を新たに建設しました。
2022年1月には、カカオ生産における児童労働リスクを減らし、生産者の収入の向上、男女格差の是正のための新たな取り組みを行うことを発表しました。具体的には、カカオ豆の量と質に対しての報酬のみならず、カカオ農家が環境と地域社会に提供する利益に対しても報酬を支払うシステムを構築したり、生産性を高めるための教育を施したりすることを表明しています。
まとめ
日本は欧米企業よりサプライチェーンの透明化が遅れており、人権問題への意識が低いと指摘されています。しかし、サプライチェーンの透明化は多くのグローバル企業が取り組んでおり、ESG投資が注目を集めている市場環境でさらに加速していきます。
企業が人権問題に取り組む場合、社員一人一人の人権問題に対する意識の向上から始まります。世界的なリーディングカンパニーの取り組みに倣い、日本企業も地域に根ざした人権問題への取り組みや、経路の透明化が求められています。