ワーケーションとSDGs|持続可能な観光・働き方としての新たな側面
「ワーケーション」という言葉を聞いたことがありますか?
「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語で、観光地やリゾート地などの普段とは異なる環境で仕事をしながら、同時にその場所の魅力を楽しむという新しい働き方です。例えば、海の見えるカフェでリモート会議をし、その後は美しいビーチでリフレッシュしたり、山間の温泉宿でリラックスしながら仕事をするなどがあります。ワーケーションは、リモートワークが普及する中で、単なるオフィスワークや在宅勤務とは異なる新しい選択肢として注目されています。
本記事では、ワーケーションを通じて持続可能な観光と働き方を実現する新たなトレンドについてお伝えします。
SDGsとワーケーションの関連性
SDGs(持続可能な開発目標、Sustainable Development Goals)は、2015年に国連が採択した、2030年までに達成すべき17の目標と、より具体的な169のターゲット(具体目標)で構成されています。これらの目標は、貧困の根絶、地球環境の保護、経済的な繁栄の確保などを目指し、全世界が協力して持続可能な未来を実現するための指針となっています。
特に関連が深いSDGsの目標
ワーケーションは、SDGsの17の目標のなかでも特に以下の目標と深い関連があります。
- 目標8:働きがいも経済成長も
ワーケーションは、新しい働き方を提供し、労働者のワークライフバランスを向上させるとともに、観光地の経済活動を促進します。 - 目標11:住み続けられるまちづくりを
観光地の地域社会における持続可能な発展を支援し、地域コミュニティの強化に寄与します。
例えば、北海道は、札幌市や函館市などの中核都市だけでなく、中標津町や弟子屈町、ニセコ町などの地域と協力しながらワーケーションの拠点や魅力などの情報発信を行っています。1つの地域だけでなく、道内に多数ある短期滞在型サテライトオフィスを使用して複数の地域でワーケーションを行えば、長期滞在が可能です。地元産業との意見交換会やスマート農業をはじめとした最先端技術の視察、北海道の自然・アクティビティの体験など地域の魅力が感じられるメニューから各企業に合ったワーケーションプランを作成することも可能で、SDGs 目標8「働きがいも経済成長も」に貢献しています。
国内外でのワーケーション成功事例
沖縄県 石垣島
沖縄県の石垣島では、「目標8:働きがいも経済成長も」につながるワーケーションを推進する取り組みが進んでいます。例えば、地元自治体と観光業者が協力し、高速インターネットや静かな作業スペースの提供など、リモートワークに適した宿泊施設を整備しました。また、訪問者がワーケーションの合間に石垣島の観光地や豊かな自然を楽しめるよう、さまざまなツアーが企画されています。さらに、地元の特産品を使った料理教室が開催されており、訪問者は地域の食材や伝統料理を学ぶことができます。石垣島の伝統工芸品を製作する体験プログラムでは、訪問者が実際に手を動かしながら、地域の工芸文化を体験することができます。
心身ともにリフレッシュしながら仕事に集中する環境が整っており、石垣島はワーケーションの理想的な場所として評価されています。また、地元の宿泊施設や飲食店がワーケーションの訪問者からの需要増加を受け、その結果、地域全体の経済活性化が図られています。これにより、地元の経済基盤が強化され、地域住民にも直接的な利益がもたらされているのです。
長野県 白馬村
長野県白馬村は、日本を代表するスキーリゾート地として知られていますが、近年ではワーケーション先としても注目を集めています。白馬村では、高速インターネット環境を整備し、ワーケーションに適した宿泊施設やコワーキングスペースを提供しています。これにより、都市部からのビジネスパーソンが訪れるようになり、地元経済の活性化が図られています。
具体的な取り組みとして、白馬村では「白馬村ワーケーションプロジェクト」を立ち上げ、地域全体でワーケーションの推進に取り組んでいます。地元の宿泊施設や飲食店が連携し、ワーケーション利用者に対して特別なサービスや延泊代金30%割引などの特典を提供しています。また、トレッキングやハイキングなどの自然体験や文化財を巡るプログラムも充実しており、訪れる人々にとって魅力的なワーケーション環境を整えています。
バリ島
バリ島は、美しい自然環境と豊かな文化が魅力で、ワーケーション先として人気があります。バリ島では、地域コミュニティとの協力を通じて持続可能な観光を推進し、観光業の安定的な発展を実現しています。特に、地元の農業や工芸品産業との連携を強化し、観光客が地域の伝統文化を体験できるプログラムを提供しています。
バリ島の成功事例として、ウブド地域では「バリ・スピリット・ワーケーションプログラム」が展開されています。このプログラムでは、参加者がウブドの美しい自然環境でリモートワークをしながら、地元の文化や伝統を学ぶことができます。例えば、バリ舞踊のレッスンや伝統工芸品の製作体験、地元農家との交流など、多彩なアクティビティが用意されています。これにより、観光業と地域経済の発展が促進され、持続可能な観光地としての評価が高まっています。
カナダ バンクーバー
カナダのバンクーバーでは、ワーケーションプログラムを通じて、世界各国からビジネスパーソンが集まり、地域の文化や自然を楽しみながら仕事をしています。このような国際的な交流は、地域の持続可能な発展に大きく寄与しています。美しい自然環境と多様な文化が魅力のバンクーバーは、ワーケーション先としても非常に人気があります。
バンクーバー市では、ワーケーション利用者向けに特別な宿泊プランや地元の文化・自然を体験できるプログラムが提供されています。例えば、市内の公園でのヨガクラスや、地元アーティストによるアートワークショップなど、バラエティ豊かなアクティビティが用意されています。これにより、訪れる人々がリフレッシュしながら仕事に集中できる環境が整っています。
ワーケーションが地域社会や環境に与える影響
ワーケーションは、地域社会や環境にも様々な影響を与えます。まず、観光地の地域経済の活性化に寄与します。観光シーズン以外にも訪れる人が増えることで、地元の宿泊施設や飲食店、観光施設などが恩恵を受け、地域全体の経済が安定化します。
また、ワーケーションは、地域社会とのつながりを強化する役割も果たします。訪れる人々が地元の文化や伝統を学び、地域コミュニティと交流することで、地域の魅力が再発見されるとともに、地域住民との絆が深まります。例えば、長野県白馬村では、ワーケーション利用者が地元の農家を訪れ、農作業を手伝いながら地域の農業を学ぶプログラムが実施されています。このような交流が、地域社会の活性化と持続可能な発展に寄与しています。
白馬村では、地元の農家との連携を通じて、ワーケーション利用者向けに農業体験プログラムを提供しています。このプログラムでは、参加者が地元の農家を訪れ、野菜の収穫や田植え、稲刈りなどの農作業を体験します。さらに、地元の食材を使った料理教室や、農家の生活を体験するホームステイプログラムも用意されています。これにより、訪れる人々が地域の農業や食文化を学びながら、地域社会との絆を深めることができます。
SDGs達成に向けたワーケーションの貢献
ワーケーションが持つ持続可能性の特徴
ワーケーションは、持続可能性の観点からも多くの利点があります。まず、リモートワークを活用することで、都市部のオフィスビルのエネルギー消費を削減し、通勤による交通渋滞や環境負荷を軽減することができます。また、観光地での滞在中に公共交通機関や自転車を利用することで、持続可能な移動手段の利用が促進されます。
さらに、ワーケーションを通じて、訪れる人々が地域の自然環境や文化を学び、持続可能な観光の重要性を理解する機会が増えます。これにより、持続可能な観光地としての意識が高まり、地域全体で持続可能な発展を目指す取り組みが進んでいます。
2030年アジェンダへの貢献と展望
ワーケーションは、2030年アジェンダに掲げられたSDGsの達成に向けた手段の一つと考えられています。企業や個人がワーケーションを積極的に取り入れることで、持続可能な働き方と観光地の経済発展を両立させることができます。
具体的には、ワーケーションを通じて地域社会との連携が強化され、持続可能な観光地としての評価が高まります。また、訪れる人々が持続可能な観光の重要性を理解し、日常生活やビジネスにおいて持続可能な取り組みを推進することが期待されます。
京都府京丹後市では、ワーケーションを通じて地域の持続可能な発展を目指す取り組みが進んでいます。京丹後市は、美しい自然環境と豊かな歴史文化が魅力の地域であり、観光業が重要な産業の一つです。市内では、ワーケーション利用者向けに特別な宿泊プランや、地元の文化や自然を体験できる「京丹後ワーケーションプロジェクト」を立ち上げ、地元の宿泊施設や飲食店と連携してワーケーションの推進に取り組んでいます。例えば、地元の農産物を使った料理教室や、地元の歴史文化を学ぶツアーなどが企画され、訪れる人々にとって魅力的なワーケーション環境が整えられています。
未来への展望
ワーケーションと持続可能な働き方の普及
ワーケーションは、持続可能な働き方の普及に向けた大きな一歩です。企業や個人がこの新しい働き方を積極的に取り入れることで、働き方の多様化が進み、労働者のワークライフバランスが向上します。また、リモートワークの普及により、都市部の人口集中が緩和され、地方の活性化にも寄与します。例えば、企業が社員のワーケーションを奨励し、リモートワークを支援するための制度やインフラを整備することが重要です。例えば、社員が一定期間リゾート地や観光地で仕事をしながらリフレッシュできるプログラムを提供する企業も増えています。これにより、社員のモチベーションや生産性が向上し、企業全体の競争力が強化されます。
日本航空株式会社
日本航空株式会社(以下JAL)では、2015年から働き方改革に取り組んでいますが、その中で有給休暇の取得率のアンバランスが課題となっていました。有給休暇の取得が比較的スムーズでした。一方で、デスクワークなどの間接部門社員の有給休暇取得率は依然として低い状況が続いていました。その対策の一環として、2017年から休暇中に仕事を行うテレワークを許容する「休暇型」のワーケーションを導入しました。この取り組みにより、長期休暇を取ることに対する抵抗感や、復帰後の業務量増加への不安を軽減し、間接部門社員の有給休暇取得率の向上に成功しました。
リクルートホールディングスの取り組み
リクルートホールディングスは、社員のワークライフバランス向上を目的に、ワーケーションを奨励しています。社員が希望する場所でリモートワークを行いながら、その地域の魅力を楽しむことができるプログラムを提供しています。リクルートホールディングスは、社員の健康と幸福を重視し、持続可能な働き方を推進するための取り組みを進めています。
世界的な規模でのワーケーションの発展とその影響
世界中でワーケーションが普及することで、国境を越えた文化交流や知識の共有が進み、持続可能な社会の実現に向けた国際的な協力が一層強化されることが期待されます。さらに、観光地の多様性や魅力が再評価され、地球規模での持続可能な発展に寄与することが可能となるでしょう。
最後に
企業や個人が、ワーケーションという新しい働き方を積極的に取り入れることで、持続可能な未来の実現に向けた大きな一歩を踏み出すことができるでしょう。皆さんも、次の休暇にはぜひワーケーションを検討してみてはいかがでしょうか。新しい環境での仕事と休暇が、きっとあなたの生活に新たな風を吹き込むことでしょう。