観光をサステナブルに!注目のツーリズム産業スタートアップ企業を紹介
グローバル全体で、サステナブルツーリズム(持続可能な観光)への注目が高まっています。自然環境や地域社会に対して配慮し、観光産業を成長させることはもちろん、観光地域の企業や地元住民が豊かになることを目指す取り組みです。
本記事は、観光をよりサステナブルに行うために立ち上がった、スタートアップ4社を紹介します。
サステナブルツーリズムの現状
DBJ・JTBFアジア・欧米豪訪日外国人旅行者の意向調査 2022年度版によると、サステナブルな取り組みを重視する割合は、欧米とアジアの両地域で半数以上を占めています。今後、日本国内でも、観光産業全体でサステナブルな取り組みを推進していくことが求められるでしょう。
欧米豪の旅行者の中でも、高収入層は、サステナブルな取り組みを重視すると答えた人々の割合が、中収入や低収入の旅行者に比べて高いことがわかりました。また、海外旅行先で実施したいサステナブルな取り組みについて選ぶアンケートでは、アジアと欧米豪の両地域ともに「ゴミ削減」が最も多い結果となっています。
アジアの高収入層は「ゴミ削減」だけでなく「宿泊施設におけるアメニティグッズの辞退」の選択率が、中収入や低収入の旅行者に比べて高いです。一方、欧米豪の場合「利益の一部を野生動物保護に充てる体験プログラムへの参加」が低所得者層は7%、中所得者層は12%に対し、高所得者層は14%と高く、また「カーボンオフセット商品の利用」を選択する旅行者も、低所得者層は8%、中所得者層は9%に対し、高所得者層は13%となっています。
サステナブルツーリズムの重要性
観光には、地域経済に対する直接的な貢献だけでなく、多くの波及効果があります。しかし一方で、環境破壊や交通渋滞、住環境の悪化といった「オーバーツーリズム」の問題も存在します。観光は地域に多大な恩恵をもたらす一方で、地域社会や自然環境に対しても大きな影響を与える可能性があるからです。
そのため、サステナブルな観光コンテンツとして、観光による地域の経済・社会・環境への影響を最大限に活かし、旅行者が地域にポジティブな影響を与える仕組みを構築することが求められます。
具体的には、地域資源の利用と保全の両立や、地域内での経済的な循環、環境保全への貢献が求められます。また、地域住民と旅行者の交流機会を創出することも重要です。
観光庁は、自治体や観光地域づくり法人(DMO)などが、国際基準に基づいた持続可能な観光地マネジメントを行えるよう「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」を策定しています。
日本の豊かな地域資源を未来に引き継ぐためには、旅行者が地域の本質を味わいつつ、地域貢献を実感できる観光コンテンツを提供し、旅行者の行動が地域の経済、社会、環境に恩恵をもたらす好循環を生み出すことが重要です。
サステナブルな観光コンテンツの造成と提供
地域資源の持続的な利用と保全を両立させる観光の仕組みを整備することは重要です。観光利用と地域の自然環境や文化財の保護をバランスよく組み合わせることで、次世代へその価値を継承していく取り組みが求められます。例えば、地域独自の貴重な資源や伝統文化を活かした高付加価値のコンテンツを提供しつつ、これらを守るためのルールやガイドラインを策定することが重要です。
また、観光によって得られた収益を、地域資源の保全や維持活動に還元することも不可欠です。観光業だけでなく、地域全体の持続可能性向上を目指すための取り組みが必要です。このような仕組みが、地域経済を強化し、社会や環境に対してもポジティブな影響を与える好循環を生み出すことにつながります。
好循環の仕組みづくり
地域内の観光消費を観光業だけでなく、他の産業にも波及させる仕組みづくりが重要です。例えば、伝統的なものづくり産業を活かしたクラフトツーリズムの展開や、農林業と連携した観光コンテンツ作り、地域の食材を使った飲食メニューの提供などが考えられます。このように、地域の他産業と観光を結びつけることで、より大きな経済効果を生み出し、地域経済全体の活性化につなげることができます。
さらに、観光を通じて地域での新たな雇用を創出することも大切です。例えば、地域独自の観光コンテンツに携わる若者を活用した取り組みや、地域の自然や文化に詳しい住民がガイドとして活動するプログラムがあります。こうした取り組みは、地域に根付いた新しい仕事を生み出し、雇用された人々が地域に対する愛着ややりがいを感じられるようになります。これにより、地域における安定した雇用の創出と維持が期待できるでしょう。
また、観光による収益を地域資源の保全や維持に再投資する仕組みを作ることが求められます。観光客が地域資源の価値を理解し、それを守るための活動に積極的に参加するような仕組みを作ることで、持続可能な観光の好循環が生まれます。観光業だけでなく、地域全体が恩恵を受けられるような取り組みが必要です。
旅行者の行動変容促進
持続可能な観光を推進するためには、旅行者自身の行動が地域や環境に及ぼす影響を理解し、その意識を変えていくことが不可欠です。まず、旅行者が観光地の環境や文化を尊重し、地域社会に貢献するための具体的な行動を促す仕組みが求められます。例えば、観光客が地域資源の保護活動に参加するプログラムや、地域の文化や伝統に関する学習機会を提供することが考えられます。
また、旅行者が自ら持続可能な選択を行うための情報提供も重要です。エコツーリズムのように、環境に配慮した移動手段や宿泊施設の利用を促すことで、旅行者の行動変容を導くことができます。さらに、旅行者の行動が地域経済にポジティブな影響を与えるよう、地域の特産品を購入することや、地元の飲食店を利用することを推奨する取り組みも効果的です。
観光を通じた行動変容を促進するためには、旅行者が自分の行動が持続可能な社会の実現に貢献しているという実感を得られることが大切です。これを実現するためには、観光事業者や地域住民が協力し、旅行者が参加しやすいプログラムや学習機会を提供することが重要と言えます。
サステナブルな観光産業に向けて取り組むスタートアップ4選
観光産業でサステナブルな変革を起こすためには、新たなテクノロジーを実装していく必要があります。ここからは、観光産業をよりサステナブルに変革することを目指すスタートアップ企業を3社を紹介します。
NotOnMap
NotOnMap(ノット・オン・マップ)は、旅行者とインド国内の農家や職人を繋ぐことを目的に、2012年に設立されたインド発のスタートアップ企業です。同社は、観光地以外の農村地域に旅行客を呼び、農村地域の人々がより良い生計を立てながら地域文化や遺産を保護し、旅行者には本物の体験を提供することを目指しています。NotOnMapは旅行者に対し、地域の人と同じように生活することを推奨しています。旅行者はNotOnMapを利用することで、滞在先を見つけられるだけでなく、地域文化を体験することができます。
Jet-Set Offset
Jet-Set Offset(ジェットセット・オフセット) は、2019年に設立されたアメリカ発のスタートアップ企業です。旅行は、距離に関係なく移動を伴い、中でも飛行機による移動は多くの二酸化炭素を排出します。同社は、飛行距離に応じて寄付ができるようシンプルなプラットフォームを構築し、サービスを提供しています。Jet-Set Offsetは、旅行者ではなく、企業の人事部門や出張管理部門に対してサービスを提供しています。同社は、企業や組織の従業員が飛行機を利用して出張した際に排出した二酸化炭素を簡単にオフセットできるよう支援をしています。
Murmuration
Murmuration(マーマレーション)は、フランス発のスタートアップ企業です。オーバーツーリズムを回避するためのソリューションを提供しています。オーバーツーリズムとは、旅行者の過度な増加によって引き起こされる問題を指し、具体的には、地域住民の生活やゴミのポイ捨て、環境破壊、他にも土地の魅力を低下させてしまうといった問題を引き起こします。同社は、Flockeoと呼ばれるプラットフォームを提供しており、衛生画像で観光地の旅行客の数を特定します。旅行会社や観光客は、同社から提供されるデータを元に、別の観光地を選択することや時間帯をズラすなど、人混みを避けることができます。そして、結果的にオーバーツーリズムの影響を軽減することが可能になります。
スタートアップが注目される理由
2022年に岸田首相が「スタートアップ創出元年」と宣言し、その後、様々な支援政策が打ち出されたことから、日本におけるスタートアップへの関心が急速に高まっています。
実際、日本のスタートアップ企業による資金調達額は、ここ数年で約2倍に増加しています。このスタートアップへの注目の背景には、いくつかの要因が挙げられます。ひとつずつ見ていきましょう。
社会・環境問題への意識の高まり
社会や環境問題への意識は年々高まってきました。特に、将来的に消費の中心となる若者世代では、7割以上が「環境負荷をかけない商品を選びたい」と考えています。
さらに、企業選びの基準にも環境への取り組みが含まれるようになり、優秀な人材を確保するためにも、環境問題への対応が欠かせない要素となっています。
このような状況下で、革新的な技術やアイデアで社会や環境の課題に取り組むスタートアップ企業への期待が高まっているのです。
スタートアップへの投資拡大
投資家もまた、企業の環境対応を重視するようになっています。2022年の調査によると、投資家の約45%が企業に対して「温室効果ガス排出量の削減」を最優先課題と考え、約30%の投資家が「自然や生物多様性への影響を最小限に抑えること」を求めています。
こうした投資家の意識の変化により、環境や社会問題を解決する独自技術を持つスタートアップ企業への投資が増加しています。また、クラウドファンディングのような簡易的な投資手段が整ったことも、スタートアップへの投資拡大の要因です。
ただし、アメリカや欧州に比べると日本のスタートアップ市場はまだ小さく、さらなる企業数の増加や投資の拡大が課題とされています。
参照:PwC|企業のサステナビリティへの取り組みに対する投資家の見解
参照:JVCA|ベンチャーキャピタル最新動向レポート(2022年度)
スタートアップの強み
スタートアップの大きな強みの一つは、その柔軟性です。日々変化する社会や市場のニーズに迅速に対応できるフットワークの軽さは、大企業にはない特性です。
また、全社員が同じ目標に向かって一丸となる姿勢は、事業成長の大きな原動力となります。
さらに、他者を巻き込むエネルギーも特筆すべき点です。特に環境問題に取り組むスタートアップは、企業、団体、人々との協力関係を築きながら活動することが多く見られます。このビジョンに向かう情熱が、投資家をはじめ多くの人々を引きつけているのかもしれません。
最後に
観光産業は裾野の広い産業です。そのため、観光産業全体で環境負荷を低減するためには、お土産店から宿泊施設、旅行会社、飛行機やバス、タクシーといった交通機関など、多くのセクターの協力が求められます。
本記事で紹介したスタートアップの事例も、旅行者を対象にしたサービスから企業や組織、旅行会社を対象にしたサービスまで幅広くあります。世界全体で旅行者の意識が変わりつつある今、観光産業は新しいテクノロジーの技術と共に大きく変化していくでしょう。