CRREM(Carbon Risk Real Estate Monitor)とは?クレム座礁資産について解説
CRREM(Carbon Risk Real Estate Monitor)という用語を、脱炭素領域でも聞くことがあります。
一般的にはクレム座礁資産とも呼ばれ、ホテルなどの不動産資産に関連するものですが、脱炭素戦略と深くかかわっています。
いったいCRREMとは、どのような指標なのでしょうか。
脱炭素分野において、すでにカーボンニュートラルなどは重要な技術となっていますが、それらの技術の適用の先にあるのが、CRREM(Carbon Risk Real Estate Monitor)ともいえます。
本記事では、温暖化対策がすすんでいる欧州地域を例にとって、「ホテルなどを含む不動産分野の資産」への適用に関して記載しています。
CRREMを基礎からよく知りたいと考えている方に、その取り組み内容について詳しく解説します。ぜひ参考にしてください。
カーボンニュートラルの考え方
CRREM(Carbon Risk Real Estate Monitor)解説の前に、前提として理解しておきたい、カーボンニュートラルについて説明します。
カーボンニュートラルということばをよく聞きますが、どのようなものなのでしょうか。
国内でも、すでにかなりの企業で取り組まれていますが、実際はどのようなものか、どのように対策すればよいか、悩んでおられる方も多いかもしれません。
脱炭素領域では必須となる取り組みですが、日本でも環境省や主な官庁でも対策がすすんでいます。また国内主要企業でも、その推進が加速しており、関連の事業室なども設置されています。
「カーボンニュートラル」とは、企業活動などで発生する温室効果ガスを、「排出削減」をしたり、さらには排出削減をしても残ってしまう部分を、他の技術で「吸収・除去」して、全体としては、差し引きゼロとする(カーボンニュートラル)ことです。
なお温室効果ガスとは、炭酸ガスやその他のガスなど、産業や民生活動で出るガスの中で地球全体を温暖化させうる、温室効果があるガスのことです。
パリ協定と座礁資産との関係
実は、CRREMにおける座礁資産の取扱いは、「パリ協定」と深く関わっています。
最近でもパリ協定が採択されたCOP21延長である、COP29での気候対策に関わる交渉や最終合意の内容がメディアで報道されています。「パリ協定」とは、今世紀後半までに、温室効果ガスの排出と吸収の均衡(世界全体での「カーボンニュートラル」)を目指す国際会議での協定です。
最初の国際会議では、2015年12月の国連気候変動枠組条約第21回締結国会議(COP21)として「パリ協定」が採択され、いわゆる「2℃目標」が定められました。これは温室効果ガスの排出が続くと、温暖化効果により地球全体の温度が上昇します。パリ協定の2℃目標とは、産業革命以前と比べて世界の平均気温上昇を2℃未満に抑えるという目標です。また、1.5℃に抑える努力も追求されています。
不動産における座礁資産とは
2℃目標を達成するための許容炭素排出量を前提にすると、石油、ガス、石炭の世界の埋蔵量の大部分が、燃やせない「座礁資産」となってしまい、この分野に投資している投資家にとっては、資産価値が大幅に低下することになります。このように座礁資産とは、低炭素社会への移行に伴う変化(需要や市場価格)によって価値が大きく毀損する可能性のある資産のことを指します。
座礁資産には、石油やガスなどが主な候補となりますが、資産のひとつである不動産にも、同じような考え方が適用可能です。欧州では、ホテルなども含む不動産についても、今後「座礁資産」となりうることが注目されています。最近はこの傾向が、欧州だけでなく、アジアや米国の不動産に対しても適用が試みられており、気候変動の移行リスクを考慮した不動産価値の再評価が進んでいます。
不動産業界におけるリスクの考え方
温室効果ガスがもたらす、気候変動によるリスクには、物理的リスクと移行リスクがあります。
たとえば、炭素税等の規制強化や脱炭素社会に対応できない企業等への需要低下やレピュテーション悪化といった脱炭素社会への移行に伴うリスク(移行リスク)と、気候変動に伴う自然災害や異常気象の増加等によってもたらされる物理的な被害に伴うリスク(物理的リスク)があります。同時に、気候変動によって創出される機会についても想定することができます。
欧州では、昔から緑の党などの活動により、政治面でも温室効果ガスの低減に取り組まれていました。特に、欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会(EC)では、温室効果ガスの低減のための技術開発に加えて、技術開発を促進する様々な政策が立案・実施されています。
社会の脱炭素化が進む中、、欧州復興開発銀行(EBRD)は、企業が温暖化ガス関連の物理リスクと機会を評価するために留意すべき事項や参考となる指標をまとめたガイダンスを公表しています。この産業分野には、従来の製造業だけではなく、不動産業も含まれています。
不動産業では嵐や洪水、海面上昇が「物理的リスク」として、大きな影響を与えると考えられています。海辺に立つ瀟洒な高級ホテルでも、地球温暖化で多発するハリケーンなどにより、最近でも大きな被害を受けています。
これ以外に、不動産業でも規模はまだ小さいですが「移行リスク」も認識されており、気候変動は中長期的な不動産価値に影響するリスクであると捉え始められています。
CRREM(Carbon Risk Real Estate Monitor)とは
CRREM(Carbon Risk Real Estate Monitor)では、パリ協定での2℃、1.5℃目標に整合する温室効果ガス排出量の削減を管理しています。このためリスクアセスメントツールの提供をCRREMでおこなっています。
欧州域内の商業用不動産向けに、リスクアセスメントツールを公開しており、当該のリスクアセスメントツールに個別不動産のデータを入力することで、リスクを定量的に測定することができます。残念ながら、欧州EU以外はその公開対象に含まれていません。
欧州では、脱炭素に関する収束アプローチとして、グローバル規模で達成しなければいけない目標(2050年時点の排出原単位)が設定されています。この目標を収束点とし、各国における排出源単位の現状と将来における建物供給量見込み、エネルギーミックス等を考慮し、国(ロケーション)やアセットタイプ毎の移行経路(Pathway)を求めています。
また将来の建物供給量見込みも算定しています。建築ストックの増加を考慮するため、世界的な人口の増加と1人あたりの床面積の推定値に基づき、需要主導型で建物供給量増加を想定するものです。この際、CRREMでは、移行リスクの財務的影響を定量化することにより、炭素効率と今後必要な改修内容を投資決定に統合することを目指しています。
不動産分野における座礁リスク分析
リスクアセスメントツールによる「座礁リスク分析の考え方」をグラフ化すると、下記のようになります。
ホテルなど、分析対象とする「保有物件データとパスウェイを比較」することで、物件単位の座礁資産化の時期及び炭素削減のためのコストを算出することができます。
炭素削減対策を実施するために必要な改修規模を把握することもでき、「保有物件毎」の運用改善への活用が期待できるツールとなっています。
グラフの縦軸は「当該資産毎の排出原単位」です。横軸は「年数」で、年数毎の排出原単位の推移がわかります。。上図では、「改修①と改修②」を行うことにより、資産ごとの排出源原単位がそれぞれ低減します。これにより当該資産の「座礁ポイント①②」もそれぞれ低下することになるのです。
なお「排出原単位」とは、下記のように定義されます。
まず建物の床面積あたりの、年間温室効果ガス排出量を計算します。排出量の数値には、暖房用の化石燃料のオンサイト燃焼によって直接生成されたものと、(地域暖房および/または電力消費の使用によって生じた)間接排出の両方が含まれます。
たとえば「当該ホテル」が立地している地域での、温暖化ガス低減への取り組みが高い場合は、当然、排出原単位が低下することになります。消費効率の良い暖房設備を設置するなど、当該ホテルでの自身の努力による低減だけでなく、地域の取り組みが重要です。
欧州では、農村など小規模地域による地産地消型での「メタンガスを利用した地域暖房システム」が発達しています。このため、当該地域に立地する「ホテル」では、間接排出となる排出原単位での削減量が高いため、当該ホテルの削減量も高くなるのです。
欧州でよく利用されている「アグロツーリズム」では、農村部にホテルなどが立地していることがありますが、地域全体での温暖化防止対策が実施されている場合は、特に有利です。
まとめ
「ホテルなどを含む不動産分野の資産管理」に関して、CRREMを基礎からよく知りたいと考えておられるみなさまに、温暖化対策がすすんでいる欧州地域を例にとって、その取り組み内容について紹介しました。
CRREMを理解するためには、カーボンニュートラルと関連しているため、まずその考え方を解説しました。その後、欧州起源のパリ協定に基づくCRREMの目指す方向性について、不動産分野での取り組みを紹介しております。
脱炭素領域の取り組みは、一朝一夕には完了しないので、じっくりと腰をすえて取り組むことが大切です。