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京都市のサステナブルツーリズム|持続可能な観光の最前線を探る

京都のサステナブルツーリズム

日本を代表する国際文化観光都市の京都。数多くの寺院や神社が点在し、四季折々の自然と景観に恵まれ、年間約5,000万人以上の観光客が国内外から訪れます。

京都市では都市全体でのサステナビリティ実現を目指すため、「環境共生と脱酸素化」や「真のワーク・ライフ・バランス」などの取り組みを盛り込んだ、「はばたけ未来へ!京プラン2025(京都市基本計画)」を2021年に策定しました。

また、長年のサステナビリティの取り組みが評価され、2023年12月には「全国市区・サステナブル度・SDGs先進度調査」*(日本経済新聞)において、京都市が1位として紹介されました。

*全国市区・サステナブル度・SDGs先進度調査:持続可能な開発目標(SDGs)の観点から、全国815市区を対象とした調査。人口減少・高齢化が進み、効率的かつ高水準の施策・事業が必須となるなか、各市区がどれだけ「経済」「社会」「環境」のバランスが取れた発展につなげているかを評価する調査。

本記事では、世界的に有名な観光都市・京都のサステナブルツーリズムに取り組み始めた背景及び具体的な取り組み事例を解説します。

京都市のサステナブルツーリズムの背景

京都市のサステナブルツーリズムの背景

古い文化遺産と美しい自然景観を保持してきた千年の都である京都。市民のおもてなしの精神で観光客を温かく迎えてきましたが、観光客の急増によって環境が変化し、オーバーツーリズム(観光客が増えすぎて地域住民の生活や自然環境に影響が及ぶこと)が課題となっています。観光産業は京都市の基幹産業の一つであり、大きな経済波及効果や雇用効果をもたらす一方で、押し寄せる観光客による観光名所周辺や公共交通機関の混雑、ごみのポイ捨て、民泊の普及による住宅街での騒音、私有地への無断侵入などが問題となっています。

地域住民からは「市バスが観光客で混雑していて、地域住民が利用することができない」「人が密集しすぎて、古都本来の美しさが損なわれている」「外国人観光客が舞妓さんを追いかけて無断で写真撮影をしている」といった苦情も上がっています。また、落書きなどによる歴史的建造物の劣化も懸念されています。

京都市は2019年5月「市民生活と調和した持続可能な観光都市」推進プロジェクトを設置し、オーバーツーズムから発生する(1)混雑(観光地・市バス・道路)、(2)宿泊施設の急増、(3)観光客のマナー違反、の対応を課題としました。さらに、「市民生活の豊かさ・地域文化の継承へ市民の共感の輪の拡大」を加えて、「市民・観光客・事業者・未来四方よしの持続可能な観光地マネジメントの実践」として、対策を取りまとめました。

京都市の具体的な取り組み事例

京都市の具体的な取り組み事例

自然環境に関する取り組み

京都市では、持続可能な観光の実現のため、以下の取り組みを行っています。

  • バス・タクシー事業者はCO2排出量の少ない輸送手段、環境への悪影響を最小限に抑えた車両を優先的に使用する
    (例)京阪バスでは、2021年12月に電気バスを導入
  • 地産地消の食材を優先的に使用し、食材の輸送時に発生するエネルギーやCO2排出量を削減する
  • カーボン・オフセット・プログラムに賛同し、ツアーで排出されるCO2を他の場所で吸収する
  • 自然環境の保護について体験的に学ぶ機会を提供する

さらに、「ものを大切にするライフスタイル」への転換を促すため、ペットボトルなど使い捨てプラスチック製品の「ごみを減らす行動」を支援・推進する「マイボトル推奨店」を実施しています。

タンブラーや水筒を持参して利用できる店舗を「マイボトル推奨店」として登録し、Webサイトで周知しています。マイボトルが利用できるだけでなく、洗浄サービスの実施やボトルの販売を行う店舗もあります。さらに、マイボトルを利用すると割引サービスが受けられる店舗もあります。

詳しくはこちら:
マイボトル推奨店・給水スポット

文化・歴史ガイドツアー

京都の文化・歴史を巡るツアーといえば、ガイド付きの大グループツアーが一般的ですが、プライベートガイドによる小グループツアーなら混雑とは無縁でゆっくりと楽しみながら学べます。

お寺や神社の地域の方々が直接案内してくれるので、文化や歴史そのものの話を聞けるだけではなく、自分から質問して知識を深めることもできます。

京都ブライトンホテルが提供している2つのツアーを紹介します。

京都を再発見 ブライトンのプライベートガイド 付きツアー

①上賀茂神社 (かみがもじんじゃ)特別拝観プラン

1300年余りの歴史があり、世界文化遺産に登録されている賀茂別雷神社(かもわけいかづちじんじゃ)は、雷のごとく強い力で厄を祓う厄除けの神様を祀っている神社です。事前予約制の当プランで特別に体験できます。

  • 日程:通年
  • 料金:一人24,200円~
  • スケジュール(午前の場合)
    10:00 京都ブライトンホテル出発(タクシー送迎付き)
    10:20 上賀茂神社到着 社務所へ 境内案内と参拝
    11:20 終了 自由散策・写真撮影など

②知恩院 (ちおんいん)特別拝観プラン

大晦日に多くの参拝客で賑わう「除夜の鐘」でも有名な知恩院。国宝の御影堂や重要文化財の大鐘楼、経蔵など、目の前の文化財にまつわる逸話などに耳を傾けながら、非公開の貴重な建造物を間近で見ることができます。庭園を眺めながら抹茶で一服し、”心のふるさと”といわれるおおらかな時間を感じられます。

  • 日程:通年
  • 料金:一人20,200円~
  • スケジュール(午前の場合)
    10:00 京都ブライトンホテル出発(タクシー送迎付き)
    10:20 知恩院到着  境内案内と参拝
    11:20 終了 自由散策・写真撮影など

上記のプライベートツアーは京都ブライトンホテルのウェブサイトで予約を受け付けています。

詳しくはこちら:
今こそおすすめしたい、ブライトンの京都時間

持続可能な交通手段の推進

京都市では、国が進める「脱炭素先行地域」に選定された京都市の計画「京都の文化・暮らしの脱炭素化で地域力を向上させるゼロカーボン古都モデル」に基づき、脱炭素修学旅行・サステナブルツーリズムに取り組んでいます。

京都には毎年春になるとたくさんの学生が修学旅行で訪れ、グループでタクシーを利用する観光が定番になっています。そこで、修学旅行生が脱炭素転換した寺社等をEVタクシーで巡って学ぶ体験型学習ツアー「脱炭素修学旅行」を京都市のタクシー会社MK(エムケイ株式会社)が企画しました。参加した修学旅行生が自分たちが暮らす地域へ「脱炭素体験」を持ち帰り、脱炭素転換した訪問先を紹介したり、学習用資料の題材にしたりすることで、他の地域での脱炭素転換の加速化に貢献したいと願っています。

MKは、自社が保有するタクシー・ハイヤーの全車ZEV(ゼロエミッションビークル)化(電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV))を進めています。MKは、2021年に全国のタクシー会社として初めて「2025年に保有車両の30%をZEVとし、2030年までに全車ZEV化の達成を目指す」ことを表明しました。

詳しくはこちら:
脱炭素京都

持続可能な宿泊施設の推進

京都市の宿泊施設や事業者は、持続可能な観光に積極的に取り組んでおり、持続可能な観光に関する認証を取得している宿泊施設や事業者も増えています。

「GOOD NATURE STATION」

GOOD NATURE HOTEL
参照:GOOD NATURE HOTEL

2019年12月に四条河原町に誕生した複合商業施設。サステナブルをテーマに「レストラン・マーケット」「オリジナルコスメ・雑貨」「食体験」「ホテル」で構成されており、食品廃棄物の堆肥化やトレーサビリティを確保した商品開発に取り組んでいます。4〜9階がホテル「GOOD NATURE HOTEL」になっており、アメニティは有機茶葉のカカオティー、石油由来原料を使用しない植物由来のシャンプー、100%オーガニックコットンのタオルなど、体に心地よいものが揃えられています。2022年4月よりプラスチックゴミ削減に向けて、歯ブラシ、ヘアブラシ、髭剃りなどの客室アメニティを廃止し、宿泊客自身で持参することを推奨しています。持参するのを忘れた場合は各アメニティをフロントで購入することができます。竹歯ブラシ(大人用)は200円、木製ヘアブラシは200円です。販売料金は循環型農業のパートナー支援や、フェアトレードで輸入している農作物の農業支援などに使われます。

2020年8月に、環境や健康に配慮した建物が認定される「WELL Building Standard(WELL認証)をゴールドランクで取得し、環境に配慮したグリーンビルディングを評価する「Leadership in Energy & Environmental Design(LEED認証)」をシルバーランクで取得しています。ホテル版評価基準によるWELL認証及びLEED認証の同時取得は、GOOD NATURE HOTELが世界で初めてです。WELL認証では評価基準が105項目あり、中でも感染症対策が徹底された「清潔で安心な空間」、地域環境に根ざしたデザインを施した「美しさと心豊かなデザイン」、中庭に京都の植生を再現したテイカカズラの「大緑化壁」を施した「緑や自然を感じられる空間の多さ」などの独自性や取り組みが高く評価されました。

「体・心・地域・社会・地球にとって健康的で、幸せであること」を選択基準にしたサステナブルな施設運営は今後も注目されるでしょう。

詳しくはこちら:
GOOD NATURE STATION

「Ace Hotel Kyoto」

Ace Hotel Kyoto
参照:Ace Hotel Kyoto

2020年6月、シアトル発の「Ace Hotel」が、京都市の中心地である烏丸御池(からすまおいけ)にオープンしました。アジア初上陸のAce Hotelは、築年数の古い建物をリノベーションするスタイルを基本とし、土地に根付く文化と共生しながら、地域のコミュニティーとつながるという独自のコンセプトで世界中にファンを持っています。Ace Hotel Kyotoは、レンガ造りが印象的な複合施設「新風館」の2階から7階に位置しています。

新風館は大正15年(1926年)に建てられた旧京都中央電話局で、京都市指定・登録文化財第一号です。「新風館再開発計画」として「伝統と革新」という新風館のコンセプトを継承し、「この場所ならではの魅力を持つ、京都のランドマークとなる開発」を新たなコンセプトに加え、ホテルと商業の複合施設としてリニューアルオープンしました。

生まれ変わった新風館は「街とつなぐ」をテーマに、烏丸御池のランドマークとして新たな魅力を発信しています。“East Meets West”をコンセプトに、建築家・隈研吾氏が監修する外装デザインはルーバーや木組みを多用し、京都の街の景観との調和を図っています。内装デザインはAce Hotelの長年のパートナーでロサンゼルスを拠点に活動するCommune Designが担当し、デザイン性の高いインテリアが施されています。館内には日本を代表する職人や作家の作品をはじめ、西洋と東洋のアート作品や工芸品がバランスよく飾られています。

電話局から商業施設、ホテルへと、建物は変わらないまま時代を超えて生き続ける新風館。このコンセプトや取り組みも、サステナブルな取り組みといえます。客室には、ペットボトルではなく紙パックの飲料水とプラスチックをなるべく使わない環境に配慮したアメニティが用意されており、歯ブラシは紙のパッケージに入った竹製のものが提供されています。

ホテル内にあるメキシコ料理レストラン「PIOPIKO(ピオピコ)」では、京都や近県で採れた食材を取り入れたタコスやビーフステーキなど伝統的なメキシコ料理を提供しています。サステナブルな取り組みに力を入れ、フードロス削減を目標にアースデー(4月22日)から1週間は規格外品の野菜を使用。また、開栓後一定の時間が経ってしまったワインと廃棄される果物の皮などを使用したアップサイクルカクテルを提供しており、館内で乾燥させた果物や地元の野菜などをアクセントとして使用しています。

詳しくはこち:
Ace Hotel Kyoto | Downtown Modern Design Boutique Hotel

観光資源の分散化

京都市では、観光地の混雑への対応として観光需要を平均的にするため観光資源の分散化を行っています。

時期・時間の分散化

京都観光にとっての閑散期である夏・冬の時期への集客として「京の冬の旅」、「京の夏の旅」などの誘客キャンペーンを実施しました。

また、比較的観光客の少ない朝・夜の時間の観光の情報発信、朝・夜観光メニューの提案を行いました。

朝観光には、「京都酒蔵館別邸〜1日の始まりは“京都”を実感する贅沢な朝食を〜」として元・酒造で贅沢な朝食がいただける希少なプランがあります。

夜観光には「【京都の夜はBarが楽しい】おススメのナイトスポット 〜バー『アンカー』」編〜」として近年新たなナイトスポットとして注目されている個性豊かなバーの魅力や注意点を紹介しています。

詳しくはこちら:
朝観光・夜観光のススメ一覧|【京都市公式】京都観光Navi

場所の分散化

有名観光地とは少し異なる「隠れた名所」などで体験できる観光資源を充実させ、京都の観光産業がサステナブルに成長できるように取り組んでいます。

伏見、大原、高雄、山科、西京、京北の市内6エリアを対象に、「とっておきの京都」として、ガイドブックには載っていないような現地情報や地域のイベントなどの情報を発信し、観光場所の分散化を図っています。

詳しくはこちら:
とっておきの京都プロジェクト

サステナブルツーリズムの成果と効果

サステナブルツーリズムの成果と効果

オーバーツーリズム対策としてさまざまな取り組みを行った結果、月別・時間帯別の観光客数の平準化、知名度が低いエリアでの観光客増加、市バスを利用する地域住民の利便性改善などの成果が得られました。和式トイレの正しい使用方法についてのわかりやすい説明や、食べ歩きや迷惑行為に対しての啓発を掲示板やリーフレットで周知し、警備員の配置を行ったことで地域住民からの苦情は減少傾向にあります。

観光客は正しいマナーをもって京都を深く楽しむことができ、地域住民は観光客と共に日常を快適に過ごすことができる。さらに、新たな観光名所や宿泊施設の繁栄により雇用の機会が増え、地域経済が活性化する。多くの観光客が訪れることで課題も浮上しますが、適切な取り組みを行うことで更なる発展をもたらすことができるのです。

京都市の持続可能な観光における今後の課題

京都市の持続可能な観光における今後と課題

世界的観光都市・京都には日々世界各国から観光客が訪れます。マナー情報を周知してもそれぞれの国の文化・習慣によって受け止め方が異なるため理解が及ばないという状況は今後も変わらないでしょう。新たな問題が発生する可能性は常にあるのです。状況に応じて断続的に効果的なマナー啓発を実施し、旅行事業者や大使館、海外メディアなどへの周知徹底を強化し続ける必要があります。

また、宿泊施設が一部エリアに集中していることや、観光コンテンツが不足しているエリアへの集客が十分ではないなど、地域によって抱える観光課題が異なっています。今後も地域や事業者との連携を強化し、エリア内での回遊につなげて分散化を推進するという課題は継続するでしょう。

一方で、市民生活を圧迫していた交通インフラ問題は解決の方向に進んでいます。

京都市では、2024年6月1日から土・日・祝日限定で「観光特急バス」の運行を開始します。運賃は大人500円・子ども250円で、市バスの運賃のおよそ2倍の価格ですが、観光客にとって利便性があり、多くの観光客の利用を見込んでいます。

運行ルートは以下の2路線です。

  • 京都駅と五条坂(清水寺近くのバス停)を結ぶ路線
  • 京都駅から五条坂を経由して銀閣寺に向かう路線

詳しくはこちら:
京都市バス・地下鉄ガイド:観光特急バス

最後に

京都は元来観光に特化した都市ではなく、千年を超えて培われてきた文化芸術、寺社、四季折々の自然景観、食文化、生き方の哲学などの価値観も含めた「暮らしの文化」が独自性の高い都市として高く評価されてきました。歴史的に「地域コミュニティ」の結束が強く、地域づくりや文化の担い手として、重要な役割を果たしてきた京都としては、観光業の発展による影響で自分たちの都市に誇りを持てないという状況は本来の姿ではなかったのかもしれません。「観光とは本来人々の幸せと平和に貢献するもの」という想いをもってさまざまな取り組みに尽力してきました。

量を増やすのではなく、質を高め、趣深い京都の魅力を提供し、市民・観光客・事業者の満足度の高い国際文化観光都市の実現に向かっている「京都モデル」は、世界のサステナブルツーリズムの先進事例の一つになるかもしれません。

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眞鍋奈穂子

眞鍋 奈穂子(まなべ なおこ)ライター/翻訳者、 企業や研究機関で技術翻訳等に従事したのち、趣味のピラティスがきっかけでライターとして活動を始める。温泉旅館とクサガメが好き。

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