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TNFDで習得必須。ミティゲーション・ヒエラルキーの考え方とは?

TNFDで習得必須。ミティゲーション・ヒエラルキーの考え方とは?

企業が自身の経済活動による自然環境や生物多様性への影響を評価し、情報開示する枠組みである自然関連財務情報開示タスクフォース・TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)の対応を始める企業が増えています。TNFDのリリースに伴い、2024/2025会計年度においてTNFD提言の開示を公表を予定すると回答した企業は、世界全体で320社あり、その内80社は日本企業でした。2番目に多かったイギリス(46社)と比べても、ダントツ多い結果です。また、この320社は2024年1月の世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)でTNFD Early Adapter(早期採用者)として発表されました。

今後日本ではTNFD提言の開示が加速すると思われますが、開示はあくまでも行動変容の一歩目で、具体的に事業ポートフォリオやビジネスモデルを変えていくことが大切です。経済活動による自然環境や生物多様性への影響を評価し、対策を考える際に重要となるのがミティゲーション・ヒエラルキーの考え方です。

ミティゲーション・ヒエラルキーとは?

ミティゲーション・ヒエラルキーは、一般的には「軽減ヒエラルキー」や「緩和ヒエラルキー」とも呼ばれます。リスク管理やセキュリティの文脈で使用されることが多い用語で、異なるレベルや段階でのリスク対策や軽減策の優先順位を示すものです。

ヒエラルキーは通常、リスクの深刻度や発生確率に基づいています。高い優先度を持つリスクは、より早い段階で対処され、軽減策が適用されるべきです。逆に、低い優先度を持つリスクは後で取り組むか、あるいは軽微な対策で対処できるかもしれません。このアプローチは、資源や時間の制約の中でリスクに対処する際に有用であり、組織がより効果的かつ効率的にセキュリティやリスク管理を実施するのに役立ちます。

TNFDにおけるミティゲーション・ヒエラルキーとは?

TNFDで習得必須。ミティゲーション・ヒエラルキーの考え方とは?
PRI INVESTOR ACTION ON BIODIVERSITY DISCUSSION PAPER(2020) P.6より抜粋

2006年当時の国際連合事務総長であるコフィー・アナンが金融業界に対して提唱したイニシアティブである責任投資原則・PRI(Principles for Responsible Investment)は、生物多様性に対する投資家のアクションと題して、2020年9月1日に稟議文書を公表しました。投資家は「ミティゲーション・ヒエラルキー」の考え方を実践するよう投資先に奨励することによって、生物多様性への正のインパクトの促進と負のインパクトの低減を追求することができ、企業が自らの活動から生じる生物多様性への負のインパクトを制限する方向へ誘導できると、稟議文章で述べています。

また、「ミティゲーション・ヒエラルキー」では、①生物多様性へのインパクトを回避・最小化(avoid, minimise)した上で、 ②生態系を復元し(restore) 、③生物多様性に対してポジティブな成果 (positiveoutcome)が出るような行動をとることで実践でき、投資先の価値創造機会を創出することもできるとも述べています。

経済活動による生物多様性への影響は、場所ごとで異なります。また、生物多様性は唯一無二の存在であり、人権と性質が似ています。温室効果ガス排出と異なり、ある地点で負のインパクトを出しているが、違う地点で正のインパクトを出していれば、相殺されるという考え方が通用しないのが、生物多様性や人権です。そのため、負のインパクトの回避から取り組まなければなりません。そして、オフセットの手法による負のインパクト軽減は、最終手段だと認識されており、企業は負のインパクトの回避から行動し、自社にノウハウやスキル、技術を構築・確立することが重要だと認識されています。

ミティゲーション・ヒエラルキーの考え方を浸透させるために投資家が取るべき行動

TNFDで習得必須。ミティゲーション・ヒエラルキーの考え方とは?

この稟議文章では、投資家が取るべき6つの行動が示されており、投資家が生物多様性保全の回復でどのような貢献ができるかが分かります。

認識・コミットメント・イニシアティブ
一定数の投資家は、生物多様性をどのように投資判断に組み込むことができるかをより深く理解しようとしています。生物多様性に関する全体の投資政策・戦略を策定し、第三者と協力して直接的に生物多様性の損失を防ぐことは可能です。また、パーム油などの環境負荷が大きい特定分野の政策提言に関わり、生物多様性関連のリスク軽減に貢献するなどの間接的な手法も考えられます。

投資配分
生物多様性関連のリスクと機会を評価し、評価結果を投資配分に反映させることができます。具体的には、ESG第三者評価機関等からの情報を活用し、投資先企業の生物多様性のリスクと機会を分析することから始めます。まだ数は少ないですが、特定の生物多様性の保全や回復を目的とした基金等は増加傾向にあり、利益の一部を基金に対して拠出することもできます。

スチュワードシップ
企業とエンゲージメントリスクを行う際、特定されたリスクの最小化と回避について話し合うことがあります。企業の経済活動による生物多様性への影響で重大な事項があると認識した場合、株主総会で議題提案をしたり、株主として議決権行使を行うことも選択肢として存在します。近年プラスチック廃棄と森林伐採に関する問題が、株主総会で議題提案されるケースが増えています。

方針
多くの国々で、生物多様性に関する政策と法律が存在しています。2020年以降、生物多様性に関する新たな国際条約や枠組みの制定を目指し、議論が活発化しています。そして、いくつかの枠組みでは、経済活動を展開している企業だけでなく、その企業に投資を行っている投資家に対しても責任を追求する案も出始めています。例えば、EUのタクソノミー開発やフランスのエネルギー転換および緑の成長に関する法律(2015年)の第173条の改正は、投資家に自らの生物多様性への貢献と生物多様性に関連するリスクを説明するよう要求しており、生物多様性が持続可能な投資政策にも組み込まれ始めていることを示しています。

意味のあるデータ
投資家は企業やデータサービスプロバイダーと連携し、より意味のあるかつ一貫性のある生物多様性データの提供を促進すべきです。質の高い生物多様性データへのアクセスや関連するデータセット、指標・目標と整合性を持たせることで、投資家の投資ポートフォリオにおける生物多様性リスクを精度高く識別させます。投資家が適切な投資判断を決定するためのデータは不足しています。生物多様性は場所ごとに特有であり、場所によって状況が異なるため、データの収集を行いたい場所の優先順位を特定し、企業やデータサービスプロバイダーに取り組みを促す必要もあります。

推薦
生物多様性の喪失を低減するために、投資活動を調整することも必要です。投資家は、グローバルレベルで生物多様性の喪失に対処する必要があります。

生物多様性の損失を回避し減少させるために、投資家ができることが数多くあります。投資家も企業もミティゲーション・ヒエラルキーの考え方を習得し、負のインパクトを排除し、生物多様性の回復の機会を創出するためにどうすれば良いか考えていきましょう。

参照: PRI INVESTOR ACTION ON BIODIVERSITY DISCUSSION PAPER
https://www.unpri.org/download?ac=11357

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市川隆志

市川 隆志(いちかわ たかし)。株式会社アスエク 代表取締役CEO。米/ニューヨーク生まれ。大学卒業後、総合商社 双日株式会社に入社し、12年間 海外営業としてドバイに駐在。旅を通じて発見や刺激を受けることが好きで、これまで80カ国を探検しました!家では子供3人の父親です!

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