カーボンオフセット制度CORSIA認証とは?航空業界の脱炭素へ向けた取り組み
世界の気温上昇を1.5度未満に抑えようと、製造業や観光業など、多くの産業セクターが、温室効果ガスの削減やカーボンニュートラル実現に向けて動いています。世界全体で排出される二酸化炭素の16.2%は移動や輸送分野が占めており、そのうち1.9%は飛行機が占めています。
航空セクターは脱炭素社会に向けて航空会社は排出量を計算するだけでなく、燃費の良い新型の航空機の購入や、二酸化炭素の排出量がより少ない運行ルートへの変更、そしてバイオ燃料などの代替燃料の活用が進んでいくことが予想されます。
変わり始めた航空業界
日本も参加しているICAO(国際民間航空機関)は、2010年に2つのグローバルな削減目標を策定しました。1つ目が、2050年まで年平均2%の燃費効率改善。2つ目が、2020年以降、温室効果ガスの排出を増加させないこと(2020年以降のカーボンニュートラル成長)です。
そして、それらを実現するために、以下4つの具体策を提示しています。
①新技術の導入
②運行方式の改善
③代替燃料の活用
④市場メカニズム(CORSIA)の導入
2021年の航空業界のCO2排出量は、国内航空が約3.28億トン、国際航空が約3.84億トンに達しました。予測によると、2030年にはこれらの数値が変動し、国内航空のCO2排出量は3.41億トンに、国際航空の排出量は5.41億トンに増加するとされています。これは航空業界の成長に伴い、環境への影響が拡大していることを示しています。
参照:独立行政法人日本貿易振興機構『国際航空で2050年にCO2排出実質ゼロへ、ICAOが採択(世界) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース』(2022/10/12)
カーボンクレジットCORSIA
「2020年以降、温室効果ガスの排出を増加させないこと」という目標を実現させるには、①〜③の対策だけでは難しいことが予想されます。そこで、企業はカーボンクレジット制度であるCORSIAの導入が推進されています。
CORSIA(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)は、国際航空に特化した「炭素オフセットおよび削減の枠組み」として知られています。国際航空活動はパリ協定の国別削減目標には含まれていませんが、国際民間航空機関(ICAO)がこの分野の温室効果ガス排出削減を目指しています。
この枠組みの下、ICAOは技術の向上、運航の効率化、代替航空燃料(SAF)の使用拡大を通じて排出削減を図ると共に、避けられない排出分については炭素クレジットを用いて対応することを目標に掲げています。具体的には、2020年の排出水準を維持しつつ、増加を防止することが目指されており、2023年5月現在、日本を含む193カ国がこの取り組みに参加しています。
参照:自然エネルギー財団『[ポジションペーパー] 炭素クレジットの新たな役割と求められるインテグリティ』(2023/05/12)
カーボンオフセットは、企業が自身の温室効果ガス排出量を把握し、可能な限りその削減に努める一方で、完全に排出をゼロにすることが難しい部分については、他の場所での排出削減や炭素吸収プロジェクトを通じて購入するクレジットで補う方法です。
参照:農林水産省『カーボン・オフセット』(2020/08/11)
特に国際航空分野で導入されているCORSIAは、炭素クレジットの利用に関して厳格な基準を設けています。これには透明性、方法論の正確性、実証性を含む19の適格要件が含まれ、これらのクレジットの審査を行い、適格であると認められたものを公表しています。具体的には、American Carbon Registry (ACR) や Architecture for REDD+ Transactions (ART) が適格クレジットリストに名を連ねており、日本ではJ-クレジットシステムもこの適格基準に従って申請を進めています。
参照:
ICAO「CORSIA Emissions Unit Eligibility Criteria」p.5~8
J-クレジット「第30回J-クレジット制度運営委員会資料」p.4,5(2023/04/28)
最大離陸重量5,700kg以上の航空機の国際線運航者が対象となっており、2019年をベースラインとし、数値を上回っている場合は超過分に相当する排出枠を購入する必要があります。
CORSIAの導入は3つのフェーズに分けられており、2021年から2023年まではパイロットフェーズ(試験期間)、2024年から2026年までは第一フェーズ、2027年から2035年が第二フェーズとなっています。
2021年の時点で排出量の把握はICAOへの参加不参加に関わらず全ての国が対象となっており、カーボンクレジット制度はICAOに参加している国が自発的に参加することが可能です。2021年の段階で日本を含めた90ヵ国が参加の表明をしています。第二フェーズの2027年からは、全てのICAO加盟国が義務化の対象となります。
CORSIAの仕組み
CORSIAを導入すると、各民間事業者は二酸化炭素の把握・削減・オフセットが義務化されます。排出量のモニタリング計画を作成し、結果をレポートにまとめ検証期間による検証を受けたのち政府に提出します。その各国政府は、航空会社に対する体制の整備と受け取ったレポートをICAOに報告する必要があります。
各民間事業者は、最終的なオフセット義務量についてCORSIAの排出量ユニット適格基準を活用し、埋め合わせを行う必要があります。
CORSIAの排出量ユニット適格基準
カーボンオフセットプログラムでは、以下の要素を満たしている必要があります。
- 方法と開発プロセス
プログラムの質を確保しつつ、削減に向けた方法と手順を公開すること。また、今後さらに削減するための方法論や手順も公開すること。
- スコープの検討
プロジェクトのレベルについて公開すること。(例えば、プロジェクトベース、プログラムの一部なのか)また、それぞれの適格基準についても公開すること。(例えば、セクター、プロジェクトタイプ、地理的情報など)
- オフクレジット発行と焼却の手続き
オフクレジットが(a.)どのように発行されたのか(b.)焼却・キャンセルされたのか(c.)ディスカウントされた理由などの情報を公開すること。また、(d.)クレジット期間と、更新可能かどうかについても公開すること。
- 識別と追跡
(a.)それぞれの要素が追跡可能であること(b.)個別の識別番号で特定できること(c.)セキュリティーにより安全に管理されていること(d.)所有者や保有者が特定されていること(例えば登録簿による特定)を確保するための手続きがあること(e.)他の登録簿とのリンクがある場合は記載すること(f.)登録している内容が国際的なデータに準拠しているかどうか、ある場合はそれがどのようなものか明示し、それらに関する情報を公開すること
- 要素の法的性格と移転
根拠となる法的性格や所有権について定義すること。また、そのための手続きに関する情報を公開すること。
- 妥当性の確認と検証の手順
妥当性の確認と検証の基準と手順、および検証者と検証者の認定の要件と手順が整っている必要があります。 上記の基準、手順、および要件はすべて、公開すること。
- プログラムのガバナンス
プログラムの管理の責任者と意思決定の方法に関する情報を開示すること。
- 透明性と参加に関する規定
(a.)どのような情報が収集され、どのような方が利用するのか(b.)ロー カルステークホルダーコンサルテーションを実施する場合の要件(c.)パブリックコメントを実施する場合は、その規定と要件及びそれらがどのように検討されるかについて情報を公開すること。
なおすべての方法論について、パブリックコメント期間を設け、公開すること。
- セーフガードシステム
環境及び社会的リスクに対処するためのセーフガードの要件があること。また、これらに関する情報が公開されていること
- 持続可能な開発基準
使用する持続可能な開発基準に関して情報を公開すること。例えば、国が掲げている持続可能な開発に関する優先事項の達成にどのように寄与するのか、またそれをいかにしてモニタリングし、報告し、検証するかについて公開すること。
- ダブルカウント・二重計算の回避
炭素市場や排出量取引に関する国内及び国際的な制度の状況は常に変化しています。その中でダブルカウント、二重発行、二重計上にどのように対処するのか情報を提供すること。
CORSIAの日本導入に関する詳細
国際民間航空機関(ICAO)の予測によれば、航空業界のCO2排出量は2050年に現在の2倍から5倍に増加する可能性があるとされています。日本は島国であり、航空輸送は国際交流に不可欠な手段です。
持続可能な航空および旅行業界の発展を図り、社会的責任を遵守するためには、航空業界の温室効果ガス排出削減が急務です。この目的を達成するため、日本は2021年にCORSIAを採用しました。さらに2022年7月には、2050年までのカーボンニュートラルを目標に掲げることで国際的な指導力を示し、航空業界の環境負荷軽減に努めています。
日本の航空産業におけるCORSIAの展望と脱炭素化への取り組み
日本の航空産業は、地球温暖化への対策として、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルを目指すという野心的な目標を設定しています。この目標に沿う形で、2035年までには国際航空のCO2排出量を2020年の水準から増加させないという中期的な目標をCORSIAを通じて定めており、具体的には以下の四つの策を推進しています:
①高効率な新技術の導入
②航空機の運航効率の向上
③持続可能な航空燃料(SAF)への転換
④炭素クレジットを用いた排出量の相殺
これに加えて、2024年から2035年までの期間における排出量のベースラインを「2019年の排出量の85%」と設定し、その基準から段階的に排出量を削減する計画です。この一連の取り組みにより、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた道筋を確立しています。
航空業界におけるCORSIA対応のための企業別具体策
ここでは、CORSIA基準に対応するため、クレジットと燃料開発に取り組んでいる航空関連企業の事例をいくつか挙げてみましょう。
日本航空株式会社
日本航空は2050年までの長期目標として、CO2排出量の実質ゼロを掲げており、2030年までには使用燃料の10%を持続可能な航空燃料(SAF)に切り替えることを目指しています。このプロセスで、国際的な共同調達を進める一方で、SAF製造者とのサプライチェーン全体にわたる協力を深めて、安定供給を目指しています。
参照:国土交通省『JALグループにおける SAFの取り組みについて』p,2.p,3.(2022/04/22)
全日本空輸株式会社(ANA)
ANAは、国際線でCORSIA基準を適用すると共に、国内線でもSAFを導入する体制を整えることを計画しています。また、CORSIA適格クレジットの取得に際して、海外からのクレジット購入が国外への資金流出を招く問題を指摘し、国内での再生可能エネルギーを活用したクレジット生成と適格化を通じて、国内資金循環を促すべきだと提案しています。
参照:国土交通省『成田空港における CO2排出量削減に向けた取り組みについて ~サステナブルNRT2050』p,16.p,18.(2021/06/22)
ENEOSホールディングス株式会社及びENEOS株式会社
エネルギー大手のENEOSグループは、SAFの供給安定化のため、自社での生産体制を早急に築くと共に、SAFの輸入体制の構築も進めています。原材料不足が課題となる中、再生可能エネルギー由来のCO2フリー水素と二酸化炭素を反応させて生成する液体燃料の研究開発にも注力しており、新たなSAFとしての実用化を目指しています。
参照:国土交通省『航空分野におけるGHG削減に向けた ENEOSグループの取組みについて』.p,3.p,5.(2022/04/25)
最後に
上述の通り、CORSIAとは、ICAOのグローバル目標達成のために主要3対策に加えて市場メカニズムを活用するための制度です。今後、CORISIAによってCDMや自主的炭素市場等のプログラムから発行されるクレジットへのニーズは高まると想定されます。一方で、COP26で議論されるパリ協定第6条に基づき、CORSIAはダブルカウントの防止や相当調整を行う必要が出るため、制度の内容は変化する可能性があります。パリ協定第6条の議論の動向にも注視していきたいです。
参照:
Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation (CORSIA)
CORSIA (Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)設立の経緯と制度の概要