アドベンチャートラベルとは?経済効果や成功事例を解説
アドベンチャートラベルは、自然、文化、アクティビティを組み合わせた特別な旅行スタイルで、旅行者に自己成長や健康、地域とのつながりを提供します。
本記事では、アドベンチャートラベルの魅力や経済効果、日本や海外の成功事例を解説します。
観光産業の可能性を広げ、地域活性化や持続可能な観光の未来を見据えるヒントを得られるため、ぜひ最後までお読みください
アドベンチャートラベルとは
アドベンチャートラベルは、従来の観光旅行とは違い、特別な体験を大切にする新しい旅行のスタイルです。「アクティビティ」「自然」「文化体験」の3つの要素が重要で、これらの要素を2つ以上組み合わせることで、旅行者に特別な体験を提供します。[1]
さらに、アドベンチャートラベルの魅力を高めているのが、世界最大の推進組織「アドベンチャートラベル・トレード・アソシエーション(以下、ATTA)」が提案する5つの価値です。
- これまでにないユニークな体験
- 旅行を通じた自己の成長
- 心と体の健康
- 新しいことへの挑戦
- 自然環境への優しさ
アドベンチャートラベルの旅行スタイルは、一般的な観光よりも更に深い体験を旅行者に与えます。自然の中でアクティビティを楽しんだり、地域の文化に触れたりすることで、旅行者は自分を見つめ直し、成長を実感することが可能です
具体的な体験には、次のようなものがあります。
アウトドアスポーツ | トレッキングやカヤックなど |
文化交流 | 地域の伝統的なお祭り、郷土料理体験など |
エコツーリズム | 野生動物を観察、森林トレッキングなど |
また、訪れる場所の環境や経済の発展を意識したスタイルでもあり、旅行者と地域の人々がともに利益を得られる形が理想とされています。
アドベンチャートラベルは、特に環境への配慮や地域への貢献に関心のある人々から注目されています。ヨーロッパ、北米、オーストラリアを中心に人気が広がり、「自然や文化をもっと深く楽しみたい」という旅行者の気持ちに応える形で成長を続けています。体験を通じて地球や人々とのつながりを深める、新しい形の観光だと言えるでしょう。
アドベンチャーツーリズムとの違い
「アドベンチャートラベル」と「アドベンチャーツーリズム」の違いは、はっきりと定義されているわけではありません。しかし、一般的には「トラベル」は旅行を意味し、「ツーリズム」は観光を指すことが多いです。
アドベンチャートラベル」は旅行者の視点に立った言葉であり、「アドベンチャーツーリズム」は観光を提供する側、すなわち観光業者や地域が観光地を整備・運営する視点を反映した言葉と言えるでしょう。
アドベンチャートラベルの経済効果
アドベンチャートラベルは、欧米を中心に約62兆円(2024年12月時点では、約3,844億3,200万ユーロ)規模の巨大なマーケットを形成しています。また、この旅行を楽しむ人々の消費額は、通常の旅行者の約2倍にもなると言われています。[2] したがって、アドベンチャートラベルは非常に大きな経済的影響力を持つと考えられます。
アドベンチャートラベルは、日本の観光市場においても大きな可能性を秘めています。調査によれば、ドイツ、イギリス、フランス、アメリカなど9カ国の旅行者が「行きたい国」として日本をトップに選んでいます。[3] この結果は、訪日旅行への期待が非常に高いことを示していると言えるでしょう。
さらに、アドベンチャートラベルを楽しむ旅行者の多くは、高級ホテル(4つ星以上)を利用する傾向があります。たとえば、アメリカやドイツ、イギリスでは、高級ホテルの利用率が70%以上に達している状況です。[3] 宿泊施設の質を重視する彼らのニーズにより、日本でも高級ホテルやラグジュアリーなサービスへの需要が拡大すると予想されます。
一方で、こうした旅行者はツアーに頼らず、自由な旅を好む特徴があります。ツアーパッケージの利用率は50%以下にとどまっており、地域ならではの体験や特別なアクティビティを提供することで、さらなる消費が期待できるでしょう。[3]
これらの要素を踏まえると、日本がアドベンチャートラベルを楽しむ旅行者をターゲットにすることで、高級ホテルや地域密着型サービス、特別な観光体験への投資が進むと考えられます。その結果、地域経済の活性化や観光収入の増加が期待できます。さらに、訪日旅行者が増えることで、宿泊、食事、アクティビティ、交通機関の利用が促進され、幅広い経済効果がもたらされるでしょう。
アドベンチャートラベルの年齢層
アドベンチャートラベルを楽しむ旅行者は、大きく3つのグループに分けられます。[4]
- 文化的地域探検者
- 体験詰め合わせ型挑戦者
- アドベンチャー集中型自然・文化探検者
それぞれの特徴と年齢層を見てみましょう。
文化的地域探検者
年齢層が高く、平均年齢43.7歳のグループです。文化的な体験を楽しむことを重視しており、ハードなアクティビティにはあまり参加しません。代わりに、地元の文化を感じられる体験を積極的に選びます。旅行の計画は他の人と相談しながら、旅行会社の情報を参考にして進めることが多いです。
また、飛行機のエコノミークラスを利用する割合が高いのも特徴です。
体験詰め合わせ型挑戦者
平均年齢は37.8歳で、20~30代が半数以上を占める比較的若い層です。ファーストクラスやビジネスクラスを利用する割合が高く、パッケージツアーを利用することは少ない傾向があります。
彼らは多彩なアクティビティに挑戦するのが好きで、ハードなハイキングやトレッキングから、文化的な体験まで幅広く楽しんでいます。旅行の計画は直前に自分で立てることが多く、雑誌やラジオなど幅広いメディアを利用して情報を集めます。
アドベンチャー集中型自然・文化探検者
本格的な体験を好む、アドベンチャートラベルの中心的な層です。平均年齢は40.2歳で、文化的地域探検者と似た特徴を持ちながら、より本格的で定期的なアクティビティを求めています。旅行の計画は自分で立てることが多く、専門メディアやプロのSNS投稿など、オンラインを活用して情報を集めています。割合としては少数派ですが、深い体験を重視する点が特徴です。
どのグループもそれぞれ異なる魅力と特徴を持っており、アドベンチャートラベルが幅広いニーズに応えていることがわかります。
アドベンチャートラベル日本の事例
アドベンチャートラベルの事例として、北海道の例を見てみましょう。北海道は、豊かな自然とアイヌ文化を活かしたアドベンチャートラベルの先進地域として注目を集めています。
とくに阿寒地域では、地元の事業者や鶴雅リゾートが中心となり、行政や観光業者との連携を深めながら、ツアーの開発や観光拠点づくりに力を注いでいます。[5]この地域では、阿寒湖の美しい自然環境やアイヌ文化の神話や伝統、さらには阿寒岳での登山やスキーといった多彩なアクティビティを楽しむことが可能です。
また、単に観光資源を紹介するだけでなく、アイヌ文化や地元の食材にまつわるストーリーを織り交ぜることで、訪問者に特別な感動を提供する工夫がなされています。地域全体でアドベンチャートラベルを盛り上げるため、行政機関や宿泊施設、デスティネーション・マネジメント・カンパニー(DMC)などが手を携え、新しい観光資源の発掘や外国語対応ガイドの育成といった課題にも取り組んでいます。
しかし、多言語対応や専門知識を持つガイドの不足、観光資源を十分に活かしきるための取り組みの充実といった課題が依然として残っているのも事実です。こうした課題に対応しながら進化を続けることで、阿寒地域は長期滞在型の旅行者を引きつけるモデルケースとなることを目指しているのです。
アドベンチャートラベル海外の事例
アドベンチャートラベルに積極的な海外事例として、スイスとニュージーランドが注目を集めています。
スイス
スイスはアルプス山脈をはじめとする豊かな自然に恵まれ、ハイキングやスキー、パラグライダーといった多彩なアクティビティを楽しめる国です。旅行者は主に国内や近隣国から訪れる人々が多いものの、近年ではアジアや北米からの訪問者も増加しています。観光を推進するため、政府と地域の観光組織(DMO)が協力し、効率的な情報発信や販売活動に取り組んでいます。[6]
さらに、安全面への配慮が徹底されており、ガイドには厳しい基準の順守や定期的な訓練が求められています。外国籍のガイドも多く、繁忙期に集中して働ける仕組みが整備されています。一部には富裕層を対象としたガイドもいますが、大多数のガイドは幅広い旅行者をサポートする重要な役割を果たしています。スイスの観光は、自然の魅力を最大限に生かしながら、安全を重視した体験を提供する点で高く評価されています。
ニュージーランド
ニュージーランドは、世界でも有数のアドベンチャートラベルの目的地として知られ、その魅力は独特な自然環境と多彩なアウトドア体験にあります。美しい自然と独特の地形を活かし、アドベンチャートラベルが盛んな国として名高いです。
人気のアクティビティにはハイキングやサイクリング、水上スポーツがあり、特に南島ではアメリカからの旅行者が多く訪れています。[7]政府と地域の観光団体(DMO)は地元の観光事業者を支援し、その活動を広げる取り組みを進めています。
さらに、自然保護局が土地の利用を厳格に管理しており、環境保全計画の策定や保険加入が義務付けられるなど、リスク管理が徹底されています。また、「Qualmark」という品質保証の制度を導入し、旅行者に安全で質の高い体験を提供する仕組みも整えられています。
ガイドは多くの場合、アクティビティごとに雇用される形が一般的で、繁忙期に働き、閑散期には別の仕事を掛け持ちすることが少なくありません。給与水準は高くないものの、ガイド職を離れて他の仕事に就くことは比較的容易です。そのため、短期間でガイドを辞める人が多いという特徴も見られます。
北海道のアドベンチャートラベルガイドとは
これまでアドベンチャートラベルについて見てきましたが、その中でとても大事なのはガイドの質であることがわかります。北海道では、このガイドの質を高めるために「北海道アドベンチャートラベルガイド認定制度」という仕組みを作っています。[8]
この制度は、北海道の自然や文化を旅行者が安全に、そして深く楽しめるようにするためのものです。国際的な基準に基づいて、専門的な知識や技術を持ったガイドを育て、認定することを目的としています。特に、ATTAが作った「アドベンチャートラベル・ガイド・スタンダーズ(ATGS)」という基準に沿って、ガイドのレベルを上げています。これにより、欧米からの旅行者を安心して受け入れられるようにするのです。
この制度は2023年に北海道知事が認定してスタートしました。地域の観光をもっと元気にし、地元の経済を活性化させることも目指しています。
アドベンチャートラベル・ワールドサミット
ATTAは、1年を通していろいろなイベントを世界中で行っています。その中で一番大きなイベントが「アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)」です。
2023北海道
2023年は9月に、北海道で開催されました。これはアジアで初めての開催で、64の国や地域から旅行会社やメディア、行政の関係者など約773人が集まりました。[9]
テーマは「調和 -Harmony」で、北海道各地で31種類のユニークなツアーが行われました。
- 支笏湖でのハイキングやカヤック
- 小樽でのトレッキング
- 白老町でのアイヌ民族の工芸体験
北海道でのATWSは本来2021年に行われる予定でしたが、新型コロナウイルスの影響でオンライン開催となり、2023年に初めて対面での実施となりました。
北海道は豊かな自然を活かしたアクティビティがたくさんあり、特にハイキングとアイヌ文化を組み合わせた体験は世界的にも珍しく、大きな注目を集めています。
2024パナマ
2024年のATWSは、パナマのパナマシティで開催されました。[10]これは中央アメリカで初めての開催で、世界中から約600人のアウトドア業界のリーダーたちが集まりました。パナマは太平洋と大西洋を結ぶ運河で知られ、サミットのテーマ「つながり(Connection)」にふさわしい場所です。このテーマでは、持続可能な地球と未来を目指す努力や共有の絆が祝われました。
サミットでは20周年を記念して、業界の未来を描くための大規模なブレインストーミングが行われ、89以上のアイデアと9つの計画が生まれました。また、パナマの活気ある文化を体験するツアーもあり、なぜ多くの旅行者がパナマを訪れるのかがわかる内容でした。
2025チリ(プエルト・ナタレス)
2025年のATWSは、チリ南部のプエルト・ナタレスで開催される予定です。[11]チリはアンデス山脈と広大な太平洋に挟まれた国で、アタカマ砂漠の澄んだ空からパタゴニアの風に吹かれる谷まで、自然の美しさが広がっています。プエルト・ナタレスは、パタゴニアのフィヨルドや氷河に囲まれた場所で、トーレス・デル・パイネの壮大な山々や静かなラスト・ホープ湾など、世界的に有名な絶景の玄関口となっています。
この地域はその雄大な景色だけでなく、自然環境の保護にも力を入れており、多くの人々を魅了しています。2025年のサミットでは、この特別な地で冒険旅行業界の未来について語り合う機会が提供されます。
これからのアドベンチャートラベル
アドベンチャートラベルは、自然や文化を楽しみながら、地域経済にも大きな効果をもたらす新しい旅行スタイルです。旅行者は通常より多くの消費をし、高級ホテルや地域特有の体験に価値を見出すため、観光地の活性化につながります。日本でも地域の文化や自然を活かし、安全性と環境保護に力を入れた取り組みを進めることで、さらなる観光客を呼び込める可能性があります。スイスやニュージーランドのようにガイドの専門性を高めたり、環境保全に基づいた観光モデルを強化したりすることで、持続可能で魅力的な観光地としてさらに成長できるでしょう。
アドベンチャートラベルは、旅行者に特別な体験を提供するだけでなく、地域経済を元気にし、自然や文化を未来に守り伝える力を持っています。これからの日本がこの旅行スタイルを活用し、世界中の人々を引きつける特別な観光地として発展していくことが期待されます。
参考文献
[1]アドベンチャーツーリズムとはAdventure tourism
[2]アドベンチャーツーリズムの推進 | 消費拡大に効果の高いコンテンツの整備 | インバウンド回復戦略 | 観光政策・制度
[3]【アドベンチャーツーリズムナレッジ集別冊】 海外調査結果
[4]【アドベンチャーツーリズムナレッジ集別冊】 海外調査結果
[5]アドベンチャートラベルで、地方の観光ポテンシャルを開花させる|地域の取り組み事例|JNTO(日本政府観光局)
[6]【アドベンチャーツーリズムナレッジ集別冊】 海外調査結果
[7]【アドベンチャーツーリズムナレッジ集別冊】 海外調査結果
[8]北海道ATガイド認定等制度-TOP – 経済部観光局観光振興課
[9]北海道でアドベンチャートラベル世界大会開催、日本のポテンシャルを世界に発信 「アドベンチャートラベル・ワールドサミット北海道・日本(ATWS2023)」開催レポート
[10]Panama 2024 | Adventure Travel Trade Association
[11]Chile 2025 | Adventure Travel Trade Association