観光の未来は地域とともに―PDMF2024が示した新たな可能性
太平洋アジア観光協会(PATA)が主催する「PATAデスティネーションマーケティングフォーラム(PDMF)2024」が、2024年11月にタイ・ペッチャブリー県チャアムで開催されました。今年のテーマは「地域主導の持続可能な観光」です。
特に注目されたのは「ニッチ市場」の可能性です。タイ国政府観光庁(TAT)のシリパコーン・チェウサムート氏は、環境意識の高い旅行者が増え、高額でも持続可能な体験を求める傾向が強まっていると指摘しました。
これに応じ、タイではウェルネスやスポーツ、ロマンチックツーリズムを推進し、ネパールではスピリチュアルツーリズムや野生動物保護と連携したプログラムを開発しました。スリランカは香辛料を活かしたガストロノミーツーリズムに力を入れています。
こうしたニッチ市場は、地域経済に貢献しながら観光客にユニークな体験を提供する新たな可能性を秘めています。
注目を集める再生可能エネルギーと、課題が残る観光収入
また、地域主導の再生可能エネルギー活用も注目を集めました。タイ南東部のジック島では、太陽光発電とバイオガスを活用し、エネルギー自給率を向上させたり、ペッチャブリー県のパデン村では、バナナの皮を燃料とするバイオマスエネルギーで脱炭素化を推進。これらの取り組みは、エコツーリズムの可能性も広げており、ジック島では地域文化を体験するホームステイ観光が人気を集めています。
一方で、観光収入の不均衡も問題視されました。タイ王国持続的観光特別地域開発管理機構(DASTA)のチューウィット・ミトルチョブ氏は、観光収入が100バーツ増えた際、最も裕福な層が46バーツを得るのに対し、最も貧しい層は3バーツしか得られないという格差を指摘しました。
これを解決するには、地域住民が観光に主体的に関わる仕組みが不可欠だとし、コミュニティ主導の持続可能な観光評価基準「CBT Thailand」を紹介しました。
具体例として挙げられたのが、タイ東北部チェンカーンの事例です。朝食クーポンを導入し、観光客を地元レストランへ誘導することで、地域全体に経済効果を波及させました。
さらに、MICE(企業会議や国際会議、展示会など)を通じた地方都市の活性化についても議論されました。
タマサート大学のピーラドーン・ケーオライ氏は、「大都市のMICE市場は競争が激しく、新たな価値を生み出しにくい。一方で地方都市には自然や伝統文化があり、新しいMICEの可能性がある」と指摘しました。
PATAのヌール・アフマド・ハミドCEOは、「会議は単なるイベントではなく、地域との交流や経済効果を生む場でもある」と強調し、シドニーやマレーシアの事例を成功例として紹介しました。
PATA会長のピーター・セモーネ氏は、「観光の価値は経済成長だけではない。雇用創出、文化や環境の保護、そしてコミュニティの発展を支える共有経済を育む力がある」と述べました。
今回のフォーラムでは、NGOやスタートアップ企業も参加し、多様な視点から観光の未来が語られました。ある参加者の「観光は目的ではなく、地域課題を解決するための手段だ」という言葉が象徴するように、観光のあり方は大きく変わりつつあります。
PDMF2024は、観光が地域社会と共に成長する道を模索する場となりました。単なる産業振興を超え、持続可能な地域発展へとつながる観光の未来がここから始まるのかもしれません。
参考