BOPビジネスとは?貧困問題を解決し新たな市場を開拓する成功事例
BOPとは「Base of the(economic)Pyramid」または「Bottom of the (economic) Pyramid」の頭文字をとったもので、直訳すると「ピラミッドの下層部」を意味します。BOPは、所得別の人口ピラミッドを上から富裕層、中間層、低所得層と分類した際の低所得層、つまり貧困層を指しています。
これは2007年に発表されたIFC(国際金融公社)とWRI(世界資源研究所)による報告書「The Next 4 Billion」の中で「購買力平価で年間所得が3,000ドル未満」の低所得層と定義されています。BOPに該当する人間の数は、世界の人口の過半数を占める40億人であり、世界人口の約72%を占めています。
BOPペナルティとは
BOPペナルティとは、低所得がゆえに不利益を得ている、と言い換えることができます。つまり、低所得者ほど生活コストが高いということです。例えば以下のようなものがあります。
交通コスト
低所得層は都市部ではなく交通の便が悪いところに住むことが多いです。そのため、数時間かけて徒歩、または乗合タクシーなどで町まで行かなければなりません。
選択肢の少なさ
村にあるスーパーでは必要な薬がないなど、必要なものが手に入らないということも起きます。また、商品があったとしても都市部から離れてしまうことで輸送費が高くなり、食料品などの値段が高くなってしまいます。
情報へのアクセス
情報に触れられないことで、適正価格を知らずに作った農作物を安く買い叩かれるなどの不利益が起きてしまっています。
BOPビジネスとは?
BOPビジネスとは、BOP層と言われる40億人の人々に対して製品やサービスを提供することで、上記のBOPペナルティを取り除き、新たな市場の開拓と貧困問題の解決につながるビジネスのことを指します。
世界人口の7割を占めているように、BOPビジネスが対象とする市場はとても大きく、企業にとっては新たなビジネスチャンスにつながる可能性を秘めています。また、BOP層の人々にとっても手に取りやすい価格でサービスや商品を受けることができるので、生活の質の向上につながります。
このように、お互いがwin-winの関係になるのがBOPビジネスの特徴です。
現状はユニリーバや味の素などの大手企業がNGOなどと協力し、現地のニーズに対応した商品を製造し販売しているケースが多いです。
BOPビジネスに注目が集まる背景
BOPビジネスに注目が集まっている理由としては、以下のようなことがあります。
SDGs達成のための有効な手段の1つ
BOP層の人々がより質の高い商品やサービスを受けられるようにすることで、彼らの抱えている健康や福祉、教育に関する問題の解決につながるかもしれません。また、ビジネスモデルによっては雇用の創出や女性の社会進出につながるなど、SDGsの169のターゲット目標の達成に貢献することが可能になります。
将来の中間所得層である
現在のBOP層は一人当たりの年間所得はとても少ないですが、全人口の約7割と大きな割合を占めているBOP層全体としての購買力は非常に高く、消費者市場は5兆ドルとも言われています。また、途上国の人口は2050年までに全人口の85%になると予測されるなど、とても大きな市場であることが分かります。
インフラの整備が整ってきている
流通ネットワークの拡大やICTが普及したことで、BOP層に対してアクセスしやすくなっていることも注目が集まっている理由の1つです。
BOPビジネスに取り組んでいる企業
ユニリーバ
インドの農村部で石鹸を販売し、女性の雇用創出に貢献しました。販売した石鹸は低所得者でも購入できる低価格な使い切りの石鹸です。インドの農村部では下痢などによる死者が多く発生しており、石鹸を使用する文化もありませんでした。しかし現地の女性住民に対し衛生教育を行い、意識向上をはかりました。そして、彼女たちを販売員として採用することで女性の社会進出と所得向上に貢献しました。
味の素株式会社
離乳食用のサプリメントを開発し販売することで、乳児の栄養不足改善に取り組んでいます。ガーナでは乳幼児の栄養不足や死亡率がとても高い状態でしたが、大手食品メーカーの販売する離乳食は値段が高くて購入できないという課題がありました。そこでまずは栄養に関する教育を現地で行いながら、手の届く価格帯で不足しがちな栄養素を効率よく摂取できるサプリメントを開発しました。また、現地の大学やNGOと協力しながら食事の調理法に関する指導なども行っています。
BOPビジネスを行う上での注意点と課題
BOPビジネスは、市場規模も大きく競合も少ないというメリットがある一方で、未開発の市場だからこそ課題となることが多くあります。
例えば、以下のようなものが考えられます。
- 価格設定が不適切
- 地域住民の本当のニーズを十分に把握しきれていない
- インフラの対応ができていない
- 現地での信頼関係
便利だから売れるだろう、安ければ買うだろう、という考えでは市場には受け入れられません。これらの失敗をしないためにも、現地のNGO・NPOなどと協力しながらニーズをきちんと把握し、信頼関係を構築していく必要があるでしょう。
また、市場を開拓するためには事例を通してもわかる通り、教育から始める必要がある場合もあります。そのため、決して簡単に参入できるわけではありません。
しかし、BOP層は将来の中間層であるとお伝えした通り、BOPビジネスを活性化させて全体の所得が向上することは、世界全体の経済成長にもつながっていくでしょう。
最後に
いかがでしたでしょうか?
BOPビジネスは参入障壁は高いですが、現地の信頼を獲得することができれば大きな市場となり、またブランド価値の向上にもつながります。
ビジネスも社会貢献もどちらも実現できるBOPビジネスは、今後持続可能な社会を目指す中で、参入する企業がますます増えるのではないでしょうか。
参照:
味の素株式会社 ~Eat Well, Live Well. ~AJINOMOTO
Unilever Global: Making sustainable living commonplace | Unilever
JACA
The Next 4 Billion | World Resources Institute