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ツーリズムと地域共生のために観光客のマナーが大切な理由

ツーリズムと地域共生のために観光客のマナーが大切な理由

日本の文化風習や豊かな自然が魅力となり、日本を訪れる外国人観光客は増加し続けています。多くの観光地がたくさんの観光客で賑わうことにより、地域経済の活性化や、厳しい環境にあった観光業界の経営状況改善が期待できます。一方で、観光地の混雑や観光客のマナー違反による地域住民の生活への悪影響や、旅行者の満足度の低下といった懸念もあります。

観光振興が地域にもたらすメリットは経済面だけではなく、地域住民の心や暮らしに豊かさをもたらすものです。地域の繁栄と同時に地域住民の生活が守られるようになれば、観光客は地域住民に快く歓迎されるようになり、より充実した時間を過ごせるでしょう。双方にメリットがあるツーリズムと地域の共生を実現するためには「観光客のマナー」を徹底することが必須条件になります。

本記事では、持続可能な観光として観光業の発展と地域共生を実現するために、観光客のマナーが大切な理由を解説します。

観光客のマナー問題

観光客のマナー問題

観光地では、外国人観光客の文化や習慣の違いが原因となる次のようなトラブルが発生しています。

ゴミの処理、衛生面のマナー

  • 道端にゴミをポイ捨てする  
  • トイレの個室にゴミを置き去りにする
  • トイレ使用後に流さない

観光地でのゴミマナーは、路上にゴミが散乱した動画がネット上で拡散し、ニュースで取り上げられるなど、大きな問題になっています。日本ではゴミはゴミ箱に捨てるか、持ち帰るのが常識ですが、ゴミ箱の設置場所がわからないか、限られた場所にしかなく探すのが面倒で放ってしまうなどゴミマナーを守らない外国人観光客の多さに苦言を呈する声が多く上がっています。一方で、「昔はもっと目の届く範囲にゴミ箱が設置されていた」「街頭にゴミ箱が無いのは日本だけなのでは?」など観光客を受け入れる日本側の対応について疑問の声も挙がっています。

海外にはポイ捨てが習慣化している地域も存在します。

日本では水洗トイレが一般的であり、当然トイレットペーパーも一緒に流しますが、トイレで水を流す習慣がない国や、トイレットペーパーをごみ箱に捨てる国などもあります。

路上マナー

  • 大人数で横に広がって歩き、通行を妨げる
  • 踏切内に侵入する
  • 路上で喫煙する
  • 飲食指定場所以外で立ち食いする
  • 道端や駐車場に集団で座り込んで休憩したり、狭い路地に集まって車や人の通行を妨げる

これらの公共の場でのマナーについては日本では「やらないのが常識」ですが、日本と同じ公共ルールが存在しない国もあります。

観光スポットでのマナー

  • 撮影禁止の物をフラッシュ撮影する
  • 重要文化財付近の立ち入り禁止区域に無断で侵入する
  • 行列のできる店や遊園地のアトラクションでの列の割り込み
  • 温泉の入浴マナー従わない
  • 宿泊施設の備品などを無断で持ち帰る

撮影禁止場所での「撮影禁止」という掲示の文字が読めない、カメラのイラストに✖印を示す掲示があっても気づかない、撮影したい対象物に熱中し、撮影禁止場所であることを認識できずにフラッシュ撮影してしまうなどの事例があります。

撮影禁止の理由は、著作権や肖像権などの権利保護を理由としたものもありますが、日本特有なのは「他人への迷惑の回避」です。写真を撮るには一旦立ち止まらなければならず、他人の観光を妨げないように配慮して撮影を禁止する、という事情は外国人観光客には理解が難しいこともあります。

「行列があったら一番後ろに並ぶ」ということは日本人にとって常識ですが、「ここが最後尾、ここに並んでください」とはっきりと指示されないと列の間に入ってしまうこともあります。

温泉の入浴については体を洗わずにいきなり湯舟に入る、タオルを湯舟にいれてしまう、湯舟の中で歯磨きをするなどが挙げられます。

宿泊施設の備品は持ち帰らないのが日本では暗黙の了解ですが、禁止されない限り客室にあるものは何でも持ち帰ってしまうという事例があります。

日本では「当たり前」とみなされていることを「当たり前」に守ってもらえるように、マナーを明文化する対策が必要です。

地域共生のための具体的なマナー

日本・地域共生のための具体的なマナー

観光客と地域住民が共生するためには、公共のマナー遵守を徹底し、お互いに気持ちよくいられる環境を維持することが不可欠です。

地域住民は「見本」となる

外国人観光客の中には、マナーがわからないときに日本人がどうやっているのかを見て真似をする人もいます。しかし、残念ながら日本人でもマナーを守らない人がいます。観光地ではいつ見られても、真似されてもいいくらい模範的な姿勢を見せなくてはならないでしょう。

また、地域住民と直接コミュニケーションをとって日本の文化や習慣について学びたいと思っている観光客も多くいます。マナーを教えることをきっかけに、日本とは異なる文化や習慣を持つ外国人観光客を正しく理解し、尊重することで相互理解が深まれば、外国人観光客により快適な旅を楽しんでもらえるでしょう。

観光地の住民として、一部の観光事業者や行政に委任するだけにせず、一人ひとりが自分事と捉え、協力してマナーの周知を行うことは持続可能な地域づくりを目指す良いきっかけとなるでしょう。

エコーツーリズムの推進で自然環境を保護する

観光を楽しみながらその地域の自然環境を守ることもマナーの一つです。

観光資源としても重要視されている地域の自然環境は、その地域住民の暮らしの中で大きな役割を果たしているため、観光客の増加による影響から保全する必要があります。

エコツーリズム(eco-tourism)とは、英語の”Ecology(生態系)”と”Tourism(旅行)”をかけあわせた言葉で、地域にある自然環境や文化・歴史を体験し、学ぶことを目的とした旅行スタイルを表します。エコツーリズムは地域独自の自然を保全しながら観光資源として活用します。例えば、豊かな自然を活かして、原生林でのバードウォッチングツアーを企画するなど、土地によって異なる植物や動物の生態系を観察し、観光に「学び」を取り入れることで、観光客の自然保護に対する意識の高まりを促進します。

また、豊かな自然を守り、そこに住む動植物が暮らしやすい環境を整えることで、観光客だけではなく、地域住民の自然に対する意識が向上し、住む人々にとっても暮らしやすい環境が作り出されるのです。

地域でエコツーリズムを推進することにより、観光業が盛んになり、その観光業での収益を維持するために、行政や企業による環境保護がさらに進むという好循環も生まれます。

地元のビジネス支援

観光客が地域と共生するためには、地域経済に貢献し、尊重することもマナーの一つです。

観光客がより多く集まってくれば、その土地の宿泊施設、飲食店、土産物店、農家などの需要が増し、新たな発想から生み出される商品やサービスが増えて地域産業が活性化します。また、交通の便の改善など社会インフラの整備が促進されることで、地域はいっそう観光客を歓迎・おもてなしする姿勢が生まれ、観光客はより地域を楽しむことができます。

観光客と地域の共生を促進するには

禁煙サイン

観光客向けのマナー教育

本来は観光に来る前に観光地のマナーや文化を学ぶべきなのかもしれません。しかし、残念ながら、事前調査なしに訪日することでマナー違反だとみなされてしまう観光客が多いのが実状です。マナーを尊重する意思があっても、マナーを知らなければ守りようがありません。観光客を受け入れる日本側で独自の慣習やマナーについて、あらかじめ説明する必要があります。

宿泊施設の場合、予約時やチェックイン時に、滞在中のマナーやルールを記載した外国語の案内を渡したり、団体旅行の場合には、添乗員からツアー客へ周知してもらうようにします。大浴場の使用方法など、特に日本独特の慣習については、大浴場だけでなく、チェックイン時や客室など、複数の場所で案内すると確実に理解してもらえるでしょう。

また、マナー面の問題が発生しそうな場所、時間帯は、できるだけ頻繁に従業員が見回りをし、マナーが守れていない宿泊客には日本語でもよいので正しいマナーを説明するようにします。

日本人の宿泊客へは「何か気になることがあれば、すぐに従業員に知らせてもらう」ように依頼しておくことで、対応が必要な状況を早い段階で発見し、影響を最小限にとどめることができます。客室の備品については、持ち帰りづらい、できない仕様に変更するなどの予防措置が必要になります。

多言語・多文化への対応

日本の文化や慣例、施設の利用方法などを各言語でわかりやすくポスターなどで伝えることが望ましいですが、近年は中国や英語圏だけでなく、東アジアの国々を中心に様々な国から観光客が訪れています。すべての国の言語を掲示することはほぼ不可能と言えるでしょう。

より多くの外国人観光客にマナーの理解を促すためには、QRコードを掲示し、それを読み取ることで施設の利用方法や日本のマナーについて紹介するWebサイトを参照してもらうという手段もあります。デジタル表示なら、多言語で案内を提供できます。

「外国人観光客」と一括りに考えがちですが、国によって受け止め方や反応は異なります。

「自国では普通のことを日本でもやっている」という認識でどこに行っても自国流で自由奔放な観光客もいれば、事前に下調べをし、片言の日本語で謙虚に日本のマナーを習得しようとする観光客もいます。重要なことは正しく教えるべきですが、数日滞在するだけの外国人観光客に対して、負荷をかけすぎないよう柔軟な対応が求められるでしょう。

国土交通省では動画でマナー啓発を発信しています。
訪日外国人旅行者向けマナー啓発動画 | 持続可能な観光の取組

マナー啓発の取り組み事例

日本を代表する観光地・京都市では、京都市を訪れる外国人観光客等に向けた、日本および京都の習慣やマナーの啓発に取り組んでいます。

「MIND YOUR MANNERS」

MIND YOUR MANNERS
出典:MIND YOUR MANNERS

産業観光局観光MICE推進室と公益社団法人京都市観光協会により作成されたチラシは、舞妓さんの無断撮影禁止、路上喫煙禁止などの異文化理解を促進するとともに、エコバックの持参や文化遺産の保護など、持続可能な観光に対する意識の向上も目的としています。

英語版と中国語版があり、「静かに京都を楽しもう」「地元産の工芸を購入しよう」「文化施設や壊れやすい物を大事に扱おう」「禁止されるところで写真は撮らないで」などがイラストでわかりやすく説明されています。

参照:マナー啓発ツール 「MIND YOUR MANNERS」チラシを作成いたしました! | 京都市観光協会(DMO KYOTO)

トイレの使用方法に関する啓発ステッカー

自国の生活習慣に基づいてトイレを使用する外国人観光客が多いことを踏まえ、外国人観光客にトイレの使用方法を周知するため、産業観光局観光MICE推進室によりトイレの使用方法に関する啓発ステッカーが作成されました。

文字中心の掲示物からイラスト中心の啓発ステッカー(日、英、中、韓の4か国語表記)になり、多様化する水洗方式(レバー、ボタン、センサー)についてもひと目でわかるように説明されています。

当該ステッカーは、同様の事情で解決策を模索する他の観光関連事業者が活用できるように、同市のウェブサイトにPDFファイルが掲載されています。

参照:京都市:トイレの使用方法に関する外国人観光客向け啓発ステッカーについて

最後に

世界中から新たな観光客を迎え、観光業が発展する一方で、地域住民の生活や自然環境を守るためには観光客にマナーを徹底してもらわなければなりません。対策には新たな費用や人員を要するでしょう。しかし、観光地としての評価が高まることで、その地に生まれ育ち、暮らしていることへの誇りが生まれ、地域住民の地域社会に貢献する意欲が高まります。

住民が地域を見直し、文化や習慣の異なる外国人観光客をどのように迎えるのか?観光による高収益を目指すことと自分たちの生活を守ることの境界をどこに置くのか?など自分たちの未来について地域が一体となって考えることを起点として、ツーリズムと地域の共生が実現に向かっていくのかもしれません。

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眞鍋奈穂子

眞鍋 奈穂子(まなべ なおこ)ライター/翻訳者、 企業や研究機関で技術翻訳等に従事したのち、趣味のピラティスがきっかけでライターとして活動を始める。温泉旅館とクサガメが好き。

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