気候変動に取り組む適応ビジネス|欧州企業の事例と日本の挑戦
SDGs13番目の目標として掲げられる「気候変動に具体的な対策を」は、地球温暖化の上昇速度を抑え、これ以上温度が上がらないように定められた世界共通の長期目標があります。つまり、気候変動への取り組みは世界的規模で考える必要のある課題で、それは逆にいえば世界的規模のビジネスを生み出す可能性があるということです。この記事では莫大な市場規模を生み出す気候変動取り組みへのビジネスを解説するとともに、特に気候変動への取り組みが積極的に行われている欧州企業の現状をご紹介します。
気候変動に取り組む「適応ビジネス」
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は第5次評価報告書(2014年発表)において、「ここ数十年で、すべての大陸と海洋において、気候の変化が自然および人間システムに影響を引き起こしている」と明示しています。地球温暖化により世界各国で異常気象が頻発し、我々の生活に直結するインフラや作物栽培への影響は日に日に目立ち始め、世界平均気温の上昇に伴う海面水位の上昇など、温暖化の影響は見過ごせないというのが世界共通の認識です。
「緩和」と「適応」
こうした気候変動に対する取り組みとしては、CO2などの温室効果ガスの排出を抑えるさまざまな施策(省エネ、再エネ利用など)が取り沙汰されます。これらの施策を気候変動に対する「緩和策」と呼びますが、かたや緩和策が機能する前に出現するさまざまな事象に対応する「適応策」に関しては、一般的にもあまり認知されていません。
本来であればこの2つは両軸として回っていくのが理想ですが、緩和策に対して認知の低い適応策は、取り組む企業もまだまだ少なく、今後のビジネスチャンスも見込める事業分野として注目を集めつつあります。
市場規模は2050年に年間最大50兆円を推計
気候変動の影響を受けやすい途上国で、異常気象による被害を抑え国土や住民の生活を守るビジネス。それが「適応ビジネス」です。その潜在的市場規模は、2050年時点で年間最大50兆円にものぼると推計され、今後の大きなビジネスチャンスとして期待されています。企業にとっては気候変動は大きな外部環境の変化としてリスクともなり得ますが、これを持続的発展の新たなチャンスと捉えれば、戦略的に気候変動に取り組むことで多くのベネフィットを享受できるのです。
【気候変動適応ビジネスのベネフィット】
- 事業の継続性を高める
- 気候変動影響に対し柔軟で強靭な経営基盤を築く
- ステークホルダーからの信頼を競争力拡大につなげる
- 自社の製品・サービスを適応ビジネスとして展開する
適応ビジネスの有望分野
そんな適応ビジネスとしてチャンスが見込める事業分野は、主な所では次のとおり。
- 自然災害に対するインフラ強靭化
- エネルギーの安定供給
- 食料安定供給・生産基盤強化
- 保険・衛生
- 気象観測及び監視・早期警戒
- 資源の確保・水安定供給
- 気候変動リスク関連金融
これらはすべて気候変動を解決するための適応ビジネスにあたる事業分野であり、同時に他のSDGsの目標とも密接に絡む事業であるため、あらゆる意味でSDGsに貢献しながらビジネスチャンスを拡大できると、欧州企業を中心として今急ピッチで取り組みが始まっています。
欧州の現状
気候変動適応ビジネスに取り組む企業の数がもっとも多いのは欧州で、続いて北米となっています。日本を含むアジア諸国ではまだまだ取り組みどころか認知すら少ない適応ビジネス。なぜ欧州各国の企業では、これほどまでに適応ビジネスが広がっているのでしょう。
EUの長期的な展望を示す気候変動適応戦略
欧州委員会では2021年2月24日に、気候変動に柔軟に順応できる社会を目指すため「気候変動適応戦略」と呼ばれる、EUの長期的な展望を発表しました。これによれば今後数十年にわたって続くことが予想される、これまでにない規模の山火事、熱波、干ばつなどの異常気象のEU全体での損害額はすでに年間で平均120億ユーロと試算されており、欧州委員会では、気候変動対策だけでなく、気候変動への社会の適応に向けた取り組みを強化、また対策の実行を加速させる必要があると解いています。これらの呼びかけは広く企業にも認知され、適応ビジネス自体が大きなチャンスとなることを各企業が理解していることが欧州各国の現状です。つまり、国をあげて環境市場を育てる土壌が育っているといえます。
SDGsをビジネスチャンスと捉える土壌
そもそも企業がSDGsに取り組むということは、社会的に大きな貢献を果たすということと同時に、その事自体がビジネスとして大きな利益を企業にもたらします。社会的意義と企業の利益。企業というものが営利活動を行うものである以上、このどちらかが欠けてしまっては、リスクを負ってまでSDGsへ取り組む事は難しいと言わざるを得ません。この考えは欧米諸国では今や当たり前ですが、日本では特に「社会貢献で金儲けをする」のは良くないことといった考え方が、いまだ根強く残っているのも事実です。こうした考えを根底から見直していくことこそ、新たなビジネスチャンスをつかむ企業のアイデンティティともなります。
まとめ
年間最大50兆円規模のビジネスチャンスが見込まれる事業分野とはいえど、日本においてはまだまだ適応ビジネスにおける取り組みは、欧州と比べると遅れていると言わざるを得ません。その理由はさまざまなものが考えられますが、最たるものは適応ビジネスに対する知見が少なく、具体的なベネフィットが見えていないということが挙げられるでしょう。
経済産業省を中心に現在もその認知活動は続いていますが、こういった状況にあるという事は、まだまだ先行者利益を得ることのできる事業分野がそこに眠っているということでもあります。欧州企業の例なども参考にしつつ、今から適応ビジネスに取り組むことは、自社の今後の継続的な利益拡大のためにも有効な手段ではないでしょうか。