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世界初の水上酪農場!気候変動と食料危機に適応するためのヒントを探る

世界初の水上酪農場!気候変動と食料危機に適応するためのヒントを探る

オランダは、運河と共に生きていた歴史があり、水上で生活する住民が一定数いました。本来陸地にあった建物や施設を水上に浮かべるというアイディアは、気候変動や食料危機といった問題に対する解決策として注目されています。オランダでは、新たに水上住宅や水上オフィスなどが港や運河に誕生しています。

オランダ第2の都市ロッテルダムには、水に浮かぶ酪農場フローティング・ファームがあります。本記事では、乳製品を生産するだけでなく、サステナビリティの取り組みにも力を入れている同施設の取り組みについて紹介します。

現地の様子をより感じることのできる動画もぜひご覧ください。

世界が直面している課題

世界は、気候変動という大きな環境的変化に直面しています。気候変動は、地球規模で目に見える形として現れています。例えば、日本国内でも集中豪雨、大型の台風による災害、海水温の上昇に海産物の不漁や熱波による作物の不作といった問題が発生しています。

パリ協定に賛同する国々では、地球温暖化を引き起こしている原因の一つである温室効果ガスの排出を削減する動きが活発化しています。日本も2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすると宣言しています。

また、世界の人口は増え続けており、2022年11月には80億人に到達。2100年には104億人になると予想されています。人口の増加に伴い、食料の生産量を増やす必要性がありますが、すでに農地が不足しており、持続可能な新たな食料システムが模索されています。

さらに、世界の人口は都市部に集中しています。2100年には世界人口の85%が都市部に住むと言われています。農作物は地方で栽培されている場合が多いので、都市の食料需要が増えると、それだけ多くの農作物を都市部へ輸送する必要があります。すると、輸送による温室効果ガスの排出量も増えることが懸念され、人口の都市部一極集中も大きな社会課題です。

生産地と都市部が近いことのメリット

世界初の水上酪農場!気候変動と食料危機に適応するためのヒントを探る

フローティング・ファームの技術は、空き地が少ない都市部内で一定量の食料を生産することが可能です。食料の生産地と都市の距離が近くなると、輸送距離が短い分、輸送にかかるコストや排出される温室効果ガスが削減されます。また、消費地の近くで生産することで、災害や感染症で物流の混乱が起きた場合でも、供給が大きく滞らない食料システムを構築することができます。

ロッテルダムの水上酪農場FLOATING FARM

ここからは、フローティング・ファーム(Floating Farm)と呼ばれる水上酪農場について詳しく解説します。オランダ第2の都市ロッテルダムは、海抜の低いデルタ地帯に位置しています。そのため、同都市は洪水や河川の氾濫、将来起こりうる海面上昇という課題に対して対策を行っています。

フローティング・ファームは、世界初の水上酪農場です。2019年に運営が開始されました。同施設は3階建てになっており、最上階では32頭の牛が飼育されています。2階では牛乳やチーズ、ヨーグルト、バターを生産し、1階ではチーズが熟成されています。生産された乳製品は、近くの事務所やロッテルダム市内のスーパーマーケットで販売されています。

世界初の水上酪農場!気候変動と食料危機に適応するためのヒントを探る

フローティング・ファームは、乳製品を生産するだけでなく、サーキュラーファーミング、つまり循環型農業を目指しています。例えば、牛に与える飼料は、ロッテルダム市内の醸造所で出る麦芽粕や近隣の運動場から調達できる草、地元の加工業者が排出するジャガイモの皮、果物、パンの切れ端など、廃棄される食材が大部分を占めています。フローティング・ファームは、破棄される予定だった食料の有効的な消費だけでなく、廃棄物の焼却時に発生する温室効果ガス排出量の削減にも貢献しています。また、これらの廃棄食材を外部から回収する際は、電気自動車が使用され、オペレーションの細かな部分まで環境配慮を行っています。

世界初の水上酪農場!気候変動と食料危機に適応するためのヒントを探る

酪農における大きな課題は、牛による大量のメタンガスの排出です。メタンガスの排出を抑制する取り組みとして、フローティング・ファームではロボットが牛の糞尿を回収します。これを肥料ペレットに加工することで、資源の有効的な活用に取り組んでいます。

世界初の水上酪農場!気候変動と食料危機に適応するためのヒントを探る

酪農場の周りには太陽光パネルが設置されており、フローティング・ファームで必要な電力を賄っています。この方法は、海面上昇が発生しても、ハリケーンによって電力供給が止まっても、酪農場のオペレーションは維持され、非常時でも乳製品を都市へ供給することができます。

アニマルウェルフェア(動物福祉)に対する配慮も行われています。フローティング・ファームは、家畜が快適かつ安全に過ごすための商品を扱うEasyfix社と協力し、牛へのストレスをできる限り減らすための環境を整えています。また、一頭あたりの広さや床の固さ、清潔さ、揺れなどにも配慮されています。さらに牛たちは、定期的に目の前の野原に放牧されます。

食料自給率が低く、災害も多い日本

農林水産省によると、日本の2021年のカロリーベースの食料自給率は38%です。つまり、スーパーマーケットに並んでいる食料の多くが海外から輸入しているものです。食料を海外からの輸入に頼っていると、海外の原料高の影響や為替レートの変動によって食料価格が大きく変動する可能性があります。また、異常気象によって原材料の収穫量や生産量が減少すると、生産国の輸出規制により、特定の穀物や食料が輸入できなくなるリスクがあります。

日本は、台風や地震といった災害が多く起こる国の一つです。さらに、日本はオランダと同様、地球温暖化によって北極の氷が溶けることで海水面が上昇すると、沿岸地域が水没してしまうことが考えられます。オランダの国土面積は日本の九州ほどしかありませんが、アメリカに次いで世界第2位の農産物輸出国です。フローティング・ファームの取り組みは、日本国内で持続可能な食料システムを構築していくための大きなヒントになるのではないでしょうか?

最後に

フローティング・ファームが誕生したのは、「牛たちは土の上で暮らす生き物だ」という固定概念を取り除くことができたからです。日本と比べ、オランダの人々は、気候変動や海面上昇といった問題を自分ごと化しているのでしょう。

私は、オランダ現地の方と話をする中で、日本に最適な食料システムを構築するためには、まず国民一人一人が、「気候変動」や「食料危機」「海面上昇」といった問題を理解し、自分ごと化することが重要だと感じました。私自身も、より問題について分かりやすく伝えられるよう今後も理解を深めたいと強く思いました。

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丸末彩加

丸末 彩加(まるすえ あやか)。幼少期をアメリカで過ごし、日本と海外どちらの視点も入れながら、楽しく社会問題を解決したいと思っています。趣味は旅行と音楽と食べることです。linkedinでも情報発信しています!

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