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バイオ炭とは?気候変動対策の切り札として注目される理由と最新情報

バイオ炭

バイオ炭とは何か?

バイオ炭は、植物性の原料(主に木材や竹など)を高温で炭化させて作る炭素質の物質です。その特徴は多孔質であり、表面積が非常に広く、微細な隙間が毒物や臭気などを吸着する能力があります。特に近年では、有望な気候変動対策の一つとみなされるなど「バイオ炭」への関心が高まってきています。

このバイオ炭が気候変動対策の文脈で注目を集めるようになったのは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2014年の「第 5 次評価報告書」の中で、世界全体の温室効果ガスの削減ポテンシャルを年間 66 億トン(CO2 換算)とする試算結果が紹介されたことが一つのきっかけとなりました。その後 、2022 年 4 月に公表した「第 6 次評価報告書」では、コストを考慮した場合の削減ポテンシャルが年間 11 億トン(CO2 換算)に見直されましたが、気候変動の緩和の取り組みとして、バイオ炭への関心は更に加速してきています。

バイオ炭の定義と成分

バイオ炭とは、バイオマス、すなわち生物由来の資源を嫌気的条件(酸素濃度が低い環境)の下で加熱することによって生成される炭化物です。木炭はその代表例ですが、その他にももみ殻や稲わら、家畜の糞尿、再生紙の製造過程で排出されるペーパースラッジなど、さまざまな資源の炭化物が含まれます。通常の炭とは異なり、バイオ炭は二酸化炭素の固定と土壌改良効果があるので環境保護に特化した用途で利用されます。

バイオ炭の定義と成分

バイオ炭の歴史と起源

バイオ炭の利用は古代にさかのぼり、アマゾン川流域で見つかる「テラプレタ(黒土)」にその起源があります。先コロンブス期のアマゾン盆地地域の先住民は、農業廃棄物をくすぶらせること(燃やしながら穴や溝の中で土で覆うこと)で、バイオ炭を作ってい先住民が有機廃棄物を土に混ぜ、炭化させることでテラプレタ(黒土)と呼ばれる肥沃な土壌を作り出していました。

バイオ炭の利用法

園芸と農業での利用

バイオ炭は土壌改良剤としても広く利用されます。土に混ぜることで保水力が向上し、養分の吸収が促進されます。また、微生物の活動が活発になり、作物の生育が良くなります。これにより、農業生産性の向上と持続可能な農業が実現します。

園芸と農業での利用

水質改善や浄化への応用

バイオ炭の多孔質な構造は、高い吸着能力を持ち、水質浄化に役立ちます。工業排水の処理や家庭用の水フィルターとして利用され、有害物質や不純物を効果的に除去します。和歌山県の岩谷水産では「紀州備長炭の粉末を添加した飼料」を魚に与え、養殖漁場の赤潮予防としての水質保全を図る取り組みが行われています。

空気浄化と脱臭効果

バイオ炭には微細な穴が多く空いているため、空気中の有害物質や臭いを吸着する能力があります。実際に、炭を利用した消臭剤なども市販されているなど、室内の空気清浄機や脱臭剤として使用されることが多く、快適な生活環境を提供します。

バイオ炭の健康効果

バイオ炭の効果

消化器系への効果

バイオ炭は消化器系の健康に寄与します。家畜の飼料に添加することで消化を助け、健康状態を改善します。人間のサプリメントとしても、消化不良やガスの発生を抑える効果があります。

毒物吸着と解毒作用

バイオ炭はその吸着能力により、毒物や有害物質を体内から除去する効果があります。活性炭は、食中毒や薬物中毒の際に利用され、体内の毒素を吸着して排出する効果があります。

バイオ炭のサプリメントとしての利用

バイオ炭はサプリメントとして、デトックス効果を期待して利用されることもあります。バイオ炭を健康食品として摂取することで、その吸着能力で体内の有害物質を排出し、健康維持にも役立ちます。

バイオ炭の環境への影響

バイオ炭の環境への影響

持続可能性とエコフレンドリーな特性

廃材や農業残渣が原料であり、廃棄物の再利用が可能です。健康な土壌を育み、農地で適量のバイオ炭を使用することで、農業の持続可能性を高めます。また、バイオ炭の農地施用は、生産者が自らの営農の中で取り組める地球温暖化対策であり、取組により農産物の付加価値を高めたり、クレジット化して販売収益を得れる可能性があります。

バイオ炭の生産とCO2削減効果

バイオ炭はその生産の過程で温室効果ガスが発生します。例えば木炭の場合、製造時にはメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)が発生します。1 トンの木炭を農地土壌に施用すると、炭素貯留量はおよそ 1.8 トン(CO2 換算)ですが、製造時に CH4 と N2O が合計 1.0 トン(CO2 換算)排出するため、正味の炭素貯留量は 0.8 トン(CO2 換算)となります。その他にも、原材料の収集や搬出、製造されたバイオ炭の運搬、土壌への施用にトラックや農機などが使用されるため、これに伴う排出も考慮すれば正味炭素貯留量はさらに目減りすることになります。したがって、土壌に貯留された量だけをもって効果を謳うべきではなく、関連する排出も含めてトータルで考える必要があります。

バイオ炭の将来性と展望

バイオ炭は、自然由来の材料を炭化させて作られる炭素質の物質で、微細な孔構造が特徴です。この構造は、毒物や臭気を吸着し、浄化するのに効果的です。また、その多様な利用法から、バイオ炭は広範な分野で活用されています。

研究と開発の進展

バイオ炭は進化を続けています。新しい製造技術や利用方法が開発され、効率的な炭化プロセスや多様な応用が模索されている取組みを紹介します。

最初の取組みは、農地土壌の炭素貯留能力を向上させるバイオ炭資材等の開発です。農林水産省の主導で、農林水産分野における炭素吸収源対策技術開発を推進する事業です。農地に適したバイオ炭の開発や、有機廃棄物からの製造によるバイオ炭の活用を通じて、炭素貯留効果までの総合評価をおこないます。

二つ目の取組みは、農業副産物を活用した高機能バイオ炭の製造・施用体系の確立です。2050年カーボンニュートラルの実現に向け、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)に2兆円の基金を造成し、野心的な目標にコミットする企業に対して、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援する事業です。農地での実際の使用からデータを収集し、バイオ炭の製造プロセスを最適化し、地域の農業副産物を活用したバイオ炭製造システムの構築をする取り組みです。

参照:
バイオ炭をめぐる事情(P17)

三つ目の取組みは、清水建設の環境保全と建設技術の融合を目指した革新的なバイオ炭コンクリートの開発です。バイオ炭コンクリートとは、コンクリートに「オガ粉」(木材の粉)から作り出したバイオ炭を使用することで、100年後でも炭素の約9割が残存します。また、バイオ炭コンクリートの強度は、一般的な土木配合(設計基準強度24N/mm2)において普通のコンクリートと同等の性能を有することが硬化性状試験で確認されています。施工性についても、現場でのポンプ圧送に適応する流動性をフレッシュ性状試験で確認されており、様々な構造物や現場でのコンクリート施工にも広く対応できます。

参照:
バイオ炭を用いてコンクリート構造物に炭素を貯留

バイオ炭研究と開発の進展

バイオ炭の市場動向と今後の展望

2020年にはJ-クレジットに「バイオ炭の農地施用」に関する方法論が策定され、「農地へのバイオ炭施用による排出削減量」をクレジットとして認証されました。日本でもバイオ炭に対する注目度は益々高まり、取組み事例も増えるでしょう。

 一つ目のJクレジット創出の取組み事例は、日本クルベジ協会によるものです。環境保全農業の普及を大々的に推進するため、J-クレジット取得を目指したバイオ炭農地埋設による土壌改良・二酸化炭素削減活動に取り組む農家の方々を集め、共同でJ-クレジット申請をおこなう「炭貯クラブ」を立ち上げて推進しています。参加者は、プログラムに参加することによって、バイオ炭を農地施用することによる二酸化炭素削減量を、国の基準のもとで「クレジット」として可視化し、J- クレジット制度を通じて販売が可能になります。

炭貯クラブの第1回プログラムでは、全国18の道府県での炭素貯留活動をまとめ、J-クレジット制度を活用した炭素貯留の取り組みでクレジットの認証を受けました。この取り組みは、247トンのCO₂削減という環境保全と経済的利益を両立させました(2022年6月30日)。また、第2回プログラムでも737t-CO₂がクレジット認証されるなど活動が拡大しています。(2024年1月26日)

炭貯クラブの第1回プログラム参加団体

参照:炭貯クラブにて申請したクレジットが認証されました!! | インフォメーション | 一般社団法人 日本クルベジ協会 (coolvege.com)

二つ目のJクレジット創出取組み事例は、山梨県によるものです。果樹の剪定枝を使って作ったバイオ炭を農地の土に混ぜることで、土壌炭素を貯留する「4パーミル・イニシアチブ」に取り組み、地球温暖化の抑制に貢献しつつ、「環境に配慮した農産物」としてブランド化させることを目指しています。「4パーミル・イニシアチブ」とは、世界の土壌表層の炭素量を年間4パーミル増加させることができれば、人間の経済活動などによって増加する大気中の二酸化炭素を実質ゼロにすることができるという考え方で、農業分野から脱炭素社会の実現を目指す取り組みです。

具体的な取り組みとして、山梨県はモモやブドウなどの果樹園に注目しました。冬に枝などを切る剪定を行います。その際に発生する剪定枝には、植物の光合成によって炭素が貯蓄されているので、剪定枝を燃やすと、炭素が酸素と結合して二酸化炭素になり、大気中に放出されます。しかし、この剪定枝を利用したバイオ炭の製造と土壌への施用することで、二酸化炭素の発生量を減らし、半永久的にその炭を土壌に留めることができます。地球温暖化の抑制と持続可能な農業の実現に貢献する素晴らしい取り組みです。

参照:
パーミル・イニシアチブについて

まとめ

バイオ炭は土壌の水分保持能力や通気性を改善し、作物の収量を向上させます。また、炭素を長期間固定し、気候変動の緩和に寄与します。さらに、メタンや一酸化二窒素などの温室効果ガスの発生を抑制し、農業廃棄物を有効利用することで資源の循環利用を促進します。バイオ炭は化学肥料や農薬の使用を減らし、持続可能な農業を支援します。

また、バイオ炭の生産と利用は地域のバイオマス資源を活用するため、地域経済の活性化にもつながります。具体的には、地元のバイオマス資源を用いることで、輸送コストを削減し、地域の雇用創出にも寄与します。これらの理由から、バイオ炭は環境保護、農業の持続可能性、地域経済の発展において重要な役割を果たすと考えられます。そのため、バイオ炭の利用を積極的に進めることが推奨されます。国内外でバイオ炭製造の事業化を検討している企業も多いでしょう。

バイオ炭の事業化には、質の高いバイオマスの継続的かつ一定量の確保が必要です。バイオマスの品質はバイオ炭の品質に直結し、水分含有量やエネルギー密度が重要です。また、安定した供給源を確保し、季節変動に対応することで生産の安定性を保ちます。具体的には、供給元との長期契約や複数の供給源の確保が求められます。これにより、事業の信頼性と持続可能性が向上します。

参照:
農林水産省:バイオ炭をめぐる事情
環境省
バイオ炭を用いてコンクリート構造物に炭素を貯留

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