ANAホールディングスの人権デューデリジェンス|取り組み事例
グローバルでも日本でもESG投資が加速しており、気候変動や人権へ配慮しているかといった情報を開示する動きが加速しています。
世界ではユニリーバが2015年に初めて「人権報告書」を発行しており、日本国内では2018年にANAホールディングスが初めて発行しました。
2021年6月にはコーポレートガバナンス・コードが改訂され、企業の取締役会が検討すべき課題に「人権の尊重」が明記されました。今後はさらに多くの企業が情報開示を行なっていくと思われます。
この記事では、2018年に「人権報告書」を発行し、その後毎年発行を行なっているANAホールディングス株式会社(以下、ANA)の人権への取り組みについて紹介していきます。
ANAの人権への取り組み
ANAの全社員が共通して守るべき行動を示した「社会への責任ガイドライン」を定めており、その中の「人権・多様性を尊重します」では以下の3つが求められています。
- ANAグループの企業活動において人権が尊重されるよう、常に配慮して行動します。
- 各国・地域の文化・慣習、歴史、価値観、社会規範を尊重し、関係者の関心ごとに配慮して行動します。
- 職場の仲間の個性や多様性を認め、ハラスメントがない健全で働きやすい職場づくりに自ら協力します。
実際にANAのサービスに係る人権のフローは下記の図のようになっています。
また、ANAグループは、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」において詳述されている手順に従って、人権デューディリジェンスの仕組みを構築しています。
取り組むテーマを決定するまで
ANAは2016年に人権リスクアセスメントを実施しています。事業内容と事業を展開している国と地域を分析し、潜在的な人権リスクを抽出しました。
次の段階として、それらに関して各事業部署に対してインタビュー調査を行い、その結果を基に取り組むべき人権課題を絞り込みました。
この絞られた人権課題やテーマに対する意見を、人権専門家などからアドバイスを頂戴し、取締役会の承認を得て今後重点的に取り組んでいく人権テーマが特定されました。
しかし、人権を取り巻く状況は常に変化していることから、最新の情報や人権基準の捕捉に継続して努めるとともに、毎年有識者を交えたレビューを実施し、必要に応じて手順や優先する人権テーマについての見直しを実施しています。
ANAが取り組む人権テーマ
以下の4つが重要な人権テーマとして掲げられており、ビジネスパートナーとの協働関係を深めながら、リスクの顕在化防止に取り組んでいます。
- 日本における外国人労働者の労働環境の把握
- 機内食等に係るサプライチェーンマネジメントの強化
- 航空機を利用した人身取引の防止
- 贈収賄の防止
それぞれ詳しく見ていきます。
日本における外国人労働者の労働環境の把握
サプライチェーン上で働く外国籍の方の労働環境を把握したうえで、問題が認められた際には速やかに改善していく必要があり、国際基準に則った対応を行っていきます。
まず行ったことは、外国人労働者の雇用状況の調査の実施です。その後、雇用状況をタイムリーに把握できるシステムを導入しました。
また、外国人労働者と雇用している管理者に対してインタビューを実施しています。なお、インタビューは、客観性ならびに中立性を確保する目的で、第三者(CRT日本委員会)の協力のもとで実施をしています。
その結果、把握できた課題として、休憩や仮眠ができるスペースの充実を求める声がありました。早朝や深夜の勤務による心身への影響を含め、労働者の健康への影響に十分に目を配る必要があることを認識しました。
2020年には物品庫を改装し、約100名が休憩できるスタンバイエリアを設置するなど、課題解決に取り組んでいます。
機内食等に係るサプライチェーンマネジメントの強化
機内食や機内物品において透明性が高く、かつ追跡可能なサプライチェーンを構築していく必要があると考えています。
まず、サプライチェーンの透明性の向上に向けてBluenumber Initiativeに参画し、主要原材料に関する情報の登録を進めています。
調達先が国内だけではなく、国際線などの海外で食材を調達する場合は現地を訪ね、関連する労働者を取り巻く人権課題の実態などについても把握しています。
今後は定期的な状況確認やサプライヤーの理解と協力が得られるよう積極的に働きかけています。
航空機を利用した人身取引の防止
エアラインが提供するサービスが意図せず、第三者によって人身取引に利用されてしまうことがないよう、防止の取り組みを進める必要があり、他の航空会社、業界団体、関係省庁、市民社会等と連携し、人身取引防止に向けた取り組みを進めていきます。
既に実績をあげている米国の取り組みから学ぶべく、人身取引防止のためのプログラムを航空会社等に提供しているNPOであるAirline Ambassadors Internationalの担当者を日本に招き、2018年4月に羽田空港でワークショップを開催しています。
また、社員一人一人が人身取引の問題について正しく理解して行動できるよう、eラーニングの実施を行なっています。
さらに、以下のような疑わしい事例を機内で発見した際に、 複合的に判断したうえで通報を行う手順・ルート等を確立しています。
贈収賄の防止
贈賄に関与することで、当該国の人権に係る問題を悪化させることがないよう、防止の取り組みを進める必要があります。
「ANAグループ贈賄防止規則」を制定するとともに、規則に具体的事例を交えて解説した「ANAグループ贈賄防止ハンドブック」も作成し、関係部署に配布しています。
また、海外赴任者への教育や社員へのeラーニングの実施、さらには海外支店における贈賄防止に係るセミナーの開催等を行っています。
引き続き、グループ内での教育の充実、ならびに定期的な遵守状況の確認を実施していきます。
以上が4つの重要な人権テーマでしたが、このほかにもLGBTQに関する取り組みや情報セキュリティ、子どもの人権などについても取り組んでいます。
より詳しく知りたい方は、ANAの「人権報告書2020」をご覧ください。