JTBがGSTC-I認証を取得。7つのステークホルダーと歩む持続可能な観光開発
JTBは2024年11月1日に、GSTCツアーオペレーター認証を取得しました。GSTC認証は観光産業において、重要な基準として注目されています。
本記事ではGSTC認証の基礎知識についてだけでなく、JTBが7つのステークホルダーとともに行っているサステナブルツーリズムへの取り組みを紹介します。
GSTC認証とは
GSTC認証は、観光産業における持続可能な取り組みを評価・認証するための世界基準のことです。
Global Sustainable Tourism Council(国際持続可能観光協議会)が定めた厳格な基準に基づき、観光事業者やホテル、旅行会社などの取り組みを評価します。
名称 | 定義 |
---|---|
GSTC | 持続可能な観光の推進を目的とした国際的な組織。 |
GSTCクライテリア | GSTCが策定した、持続可能な観光のための国際的な基準。 |
GSTC認証制度 | GSTCクライテリアに基づき、第三者機関が評価・認証する制度。 |
GSTCクライテリアには、観光地向けの「GSTC-D」と観光産業向けの「GSTC-I」という2種類の基準があります。
基準 | 内容 |
---|---|
GSTC-D(Destination) | 自治体や観光協会が管理する「観光地全体」の持続可能性を評価 |
GSTC-I (Industry) | ホテルや旅行会社などの「個別の観光事業者」の取り組みを評価 |
両基準とも、4つの分野から総合的な審査が行われます。
(A)持続可能な経営
(B)社会経済への影響
(C)文化への影響
(D)環境への影響
例えば、CO2排出量の削減目標や、地域の伝統文化を守る取り組み、現地スタッフの雇用状況などが評価の対象となります。
観光事業者がGSTC認証を取得することで、旅行者は安心してサステナブルな旅行を選べます。認証取得企業は国際的な信頼性が高まり、環境や社会に配慮した事業運営の指針としても有効です。
GSTC認証はなぜ重要か
GSTC認証は、観光産業におけるサステナビリティを客観的に評価する国際的な物差しとして、重要な役割を果たしています。
気候変動対策や海洋資源の保護、地域コミュニティの経済発展支援など、国連の持続可能な開発目標(SDGs)にも貢献できるでしょう。
旅行者の視点からも、GSTC認証は重要な指標となっています。Booking.comが行った調査によると「よりサステナブルな旅行をしたい」と、サステナブル認証を受けた施設や観光地を優先する傾向が明らかになりました。環境や社会に配慮した旅行を希望する人が増加する中、認証マークは信頼できる選択基準となります。
企業経営においても、GSTC認証取得は大きなメリットをもたらします。持続可能な観光への取り組みは、企業価値の向上やブランドイメージの強化にとって重要です。ESG投資の観点からも、認証取得企業は投資家から高い評価を得やすくなります。
JTBがGSTC-I認証制度を取得
JTBは2024年11月1日に、第三者国際認証機関のひとつであるBureau Veritasのもと、GSTCツアーオペレーター認証を取得しました。
JTBは経営理念として「地球を舞台に、人々の交流を創造し、平和で心豊かな社会の実現に貢献する」ことを掲げるだけでなく、6つのサステナビリティ方針に基づき、積極的にサステナブルツーリズムへ取り組んでいます。
6つのサステナビリティ方針
(1)サステナビリティの推進体制と法令や行動規範の遵守
(2)顧客とのコミュニケーションを通じたサステナビリティの推進
(3)地球上の自然資源と生物多様性の保全
(4)地域社会におけるサステナビリティの推進
(5)サプライチェーンと連携したサステナブルなサービスの提供
(6)安心して働けるサステナブルな職場環境の醸成
認証を行った第三者国際認証機関Bureau Veritasの審査員からも「JTBがツーリズム産業のパイオニアとして示してきたことを、他の日本企業が同じ道を歩むきっかけに役立ててほしい」と、JTBの取り組みを高く評価しています。
今回の認証取得をきっかけに、JTBはサステナブルツーリズムの普及や拡大に向け、今後の課題や展望を発表。日本におけるサステナブルツーリズムの先駆者として、さらなる活躍が期待されるでしょう。
7つのステークホルダーと社会課題を解決
JTBグループは「顧客」「地域」「環境」「事業パートナー」「政府・国際機関」「株主・投資家」「社員」の7つをステークホルダーと位置づけ、各々との関係性を重視しています。
7つのステークホルダーそれぞれの期待や要請に応え、社会課題の解決に向けて協働している点は注目すべきポイントです。それぞれのステークホルダーと協力して社会課題を解決することで、JTBグループの持続的な企業価値向上が期待できます。
サステナビリティに価値を感じる顧客の選択肢の拡大
JTBグループは、社会や環境の持続可能性により高い価値を感じる顧客向けに、多様なステークホルダーと連携しながら、持続可能な旅行の選択肢を提供しています。
代表的な取り組みである「TSUNAGARI旅」では、カナダ観光局をはじめ、現地の環境保護団体、先住民コミュニティ、環境配慮型レストラン、環境認証取得ホテルなど、多様なステークホルダーと協働。
守られてきた自然や文化を大切に守り、受け継がれてきた伝統を伝え、育まれてきたものを未来に持続させるという理念のもと体験や交流を提供しています。
マルチステークホルダーによる持続可能な観光の取り組みは、一般社団法人日本旅行業協会(JATA)主催のツアーグランプリ2023において国土交通大臣賞を受賞しました。[2]
環境・文化・社会の観点も考慮した観光地開発
JTBグループは、交流創造事業の一環として「地域・エリアを1つのテーマパークのようにつなげ、価値を高める」というエリアソリューション事業を展開しています。この取り組みでは、多様なステークホルダーとの連携が特徴となっています。
実績として、やんばるジップライン事業と「やんばるエリア」の生物多様性を学ぶ機会の提供では、2023年度に10,726人の実績がありました。2028年度では、12,000人を目標としています。
また、沖縄県本部町の「フクギ並木」で有名な備瀬地区では、Fukukitaru事業による備瀬地区のフクギ並木の維持・保全に取り組み、2023年度は112件の実績を上げました。
オーバーツーリズム対策としては、山梨県での「やまなし観光MaaS」の実証事業が注目されます。観光地が点在し、交通網が整備されていなかった課題に対し、TPG(Tourism Platform Gateway®)というソフトウェアを開発。複数の交通手段・観光施設をつなぎ、スマートフォンでルート検索・予約・決済が可能な環境を整備することで、観光客の分散化と地域の消費向上を実現しています。
JTBグループは地域の経済効果だけでなく、環境・文化・社会の観点も考慮した観光地開発を、地域コミュニティや事業パートナーと共に推進しています。
サステナビリティ教育の機会を提供
JTBグループは、地域とのつながりを重視したSDGs教育プログラムを展開し、持続可能な地域づくりを担う次世代の育成に取り組んでいます。
例えば、中学・高校向けの「脱炭素まちづくりカレッジ」では、地域の環境課題や取り組みを学ぶ機会を提供。また「るるぶ情報版各誌」では地域のサステナブルな取り組みについて年間134冊もの情報を発信し、地域の持続可能性について学ぶ教材として活用されています。
さらに、海外の現地体験学習プログラムでは、ドイツ・フライブルクやロサンゼルスなど環境先進都市の取り組みを学び、マレーシア・コタキナバルではビーチクリーニングを通じて地域の環境保全活動に参加。こうした体験を通じて、参加者が自分の地域の課題や可能性を考えるきっかけを創出しています。
JTBグループの教育プログラムは、単なる知識の習得にとどまらず、地域の持続可能性について実践的に学び、考える機会を提供することで、地域の未来を支える人材育成に貢献しています。
政府・国際機関との連携
行政との連携では、再生可能エネルギーの利活用の観点から地域創生に関わりを持っています。全国の「JTB観光開発プロデューサー」がツーリズムの立場から施策提言や仕掛けづくりを進め、持続可能な航空燃料(SAF)の利用など、ジェット燃料の課題解決に向けて航空会社と共同で検討中です。
国際機関との連携では、グローバルNGOである「グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会(GSTC)」と深く協働。世界のサステナブル・ツーリズムに関する定性・定量的な情報を収集すると同時に、日本のツーリズム産業に関する情報発信を進めています。
GSTCのCEOであるRandy Durband氏との直接対話の機会を設け、ツーリズム産業に携わる同業他社社員とJTB社員が、持続可能なツーリズムについての理解を深めています。日本だけに止まらず、グローバルな視点で持続可能なツーリズム産業を目指している点に注目です。
株主・投資家
JTBグループは、株主・投資家に対して、ESGに関する取り組みの可視化とレポーティングを積極的に進めています。
主な取り組みとして、JTBビジネストラベルソリューションズ(JTB-CWT)では、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の観点を組み込んだサービスを提供しています。
例えば、環境面ではCO2排出量分析レポートやカーボンオフセットの要望に対応。社会面では出張業務のDX支援や発想力向上のためのワークショップ導入をサポート。ガバナンス面では出張関連商品について、どのような商品を選択・購入すべきかを明記した購買ガイドライン策定を支援しています。
JTBグループは株主・投資家の期待に応えるため、ESGの観点を取り入れたビジネスモデルの展開と、その成果の可視化・開示を推進しています。
社員
JTBグループは、「人権・DEIB」を重要な経営課題として位置づけ、以下の取り組みを推進しています。特に、自社やサプライチェーンを含めた人権デューデリジェンスの実施は、注目すべきポイントです。
- 人権セミナーの実施
- 基本的な考え方と人権・ハラスメント防止についての理解促進
- 職場の人権相談窓口の設置と対応体制の整備
- グループ会社、国内・海外サプライヤーへの対象範囲拡大
人権尊重とDEIBの推進を通じて、すべての社員が安心して働ける職場環境の実現を目指しています。
事業パートナーと持続可能性向上
JTBグループは、事業パートナーとのコミュニケーションを通じて、サステナビリティの取り組みを相互に高め合う関係構築を目指しています。特に、宿泊施設との積極的なパートナーシップに基づくサステナブルな事業展開は注目を集めています。
1956年創設の「JTB協定旅館ホテル連盟」では約3,600軒※の施設が参加し、2024年6月には「サステナブルツーリズム・パートナーシップ協働宣言」にも賛同しました。※2024年5月末現在
また、デジタル化を通じたサポートにも注力しています。JTBデータコネクトHUBにより、以下の支援を行っています。
- 業務効率化
- スマートチェックイン
- レベニューマネジメント
- 自動精算機導入
「CO2ゼロMICE®」といったサステナブルなサービスも提供しています。ミーティングやイベントを実施する際、会場で使用する電気を、CO2が排出されない再生可能エネルギーへ切り替えることが可能です。「CO2ゼロMICE®」の販売実績は2023年度で180件(契約施設数126件)と好調です。
再生可能エネルギーを活用したサステナブルなイベントの実現にも貢献し「第1回JATA SDGsアワード 経済・産業部門」で優秀賞を受賞しています。
環境面
2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指しており、その一環として、スコープ1、2、3の全ての排出量を削減する目標を掲げています。具体的には、次の取り組みが挙げられます。
- 再生可能エネルギーの利用拡大
- 省エネ対策の推進
- サプライチェーン全体の排出量削減に向けた取り組み
また、気候変動によるリスクへの対応として、自然災害のリスク評価や、気候変動の影響を受ける地域の観光資源の保全活動にも力を入れています。
JTBの今後の取り組み
JTBは2035年に向けた長期的なビジョンとして「交流創造事業」を掲げています。持続可能なツーリズム産業には、多くの人が関わる必要があるからです。
- 宿泊施設
- 旅行会社
- 飲食店
- 環境・自然保護団体(NGO)
- 農林水産業
- IT産業
JTBはツーリズム産業として、交流する人が増えるほど地域や人権、環境の課題が解決されていく。そして、さらに社会の発展へとつながるといった「サステナブルツーリズム」を目指しています。そのためにも、以下の目標を掲げています。
- 環境負荷を減らす交流の拡大
- 環境についての地域との相互理解の拡大
- サステナビリティに資するあらゆる交流の拡大
- 訪問先に対する思いやりや配慮を育み、更なる感動機会の拡大
顧客や事業パートナー、地域、環境など多岐にわたるステークホルダーと更なるパートナーシップを構築していき、サステナブルツーリズム産業での活躍が期待されます。
参照