サーキュラー・バイオエコノミーとは?世界の動きと取り組み事例を紹介
私たちが毎日使っているスマートフォン、毎日食べる料理や着ている衣服。これらは、全て地球の資源である石油や鉱物、水資源や森林を消費して作られています。今の化学燃料に依存する大量生産・大量消費・大量廃棄のシステムを継続し続け、かつ人口が増加することによって、更なる環境破壊が引き起こされるだけでなく、資源が枯渇してしまうことも懸念されているのです。
そこで注目されているのが、自然と調和しながら経済成長することを目指す「サーキュラー・バイオエコノミー」。サーキュラー・バイオエコノミーとは、「サーキュラーエコノミー」と「バイオエコノミー」を組み合わせた言葉で、日本では「循環型共生経済」と訳されます。
サーキュラー・バイオエコノミーの背景
サーキュラーエコノミーとは
まず「サーキュラーエコノミー」とは、資源投入量・消費量を抑えて可能な限り資源の無駄をなくし、資源を循環させることで廃棄をなくす経済のことを指します。サーキュラーエコノミーは、これまでの「発生するごみ」に対する解決策の3R(リデュース・リユース・リサイクル)とは定義が異なり、「ごみが出ないように」製品をデザインし、廃棄物の発生抑制を目指す広範囲な経済活動全体を対象としています。
バイオが指すものとは
では、サーキュラー・バイオエコノミーの「バイオ」とは何を指すのでしょうか?
英語で「バイオ(bio)」は、生命や生物を表す接頭語です。日本語では一般的に、生物学を意味する「バイオロジー」と「テクノロジー(技術)」の合成語である「バイオテクノロジー」を指します。バイオテクノロジーとは、生物が持つ能力や働きを人間の暮らしに役立てる技術のことです。
世界は、化石燃料を用いた第一次産業革命から、AIやIoT、ビッグデータを活用する第四次産業革命まで、産業構造を進化させてきました。しかし近年、コンピュータ技術とバイオテクノロジーを融合させた第五次産業革命が予測・期待されています。第五次産業革命は「持続可能」を中心としており、その中で重要な役割を果たすのが、「バイオエコノミー」です。
バイオエコノミーとは、石油や石炭、天然ガスといった化石燃料の代わりに生物資源(さとうきびやとうもろこしなどの資源作物、家畜の排せつ物や食品廃棄物などの廃棄物類、稲わらや麦わらなどのバイオマス)やバイオテクノロジーを活用し、資源循環型の経済活動を行うことです。「持続可能な社会の実現」のためには、幅広い分野でバイオテクノロジーを活用し、バイオエコノミー社会を実現する必要があるのです。
バイオテクノロジーの各国の動き
2005年にEUにて、2010年までの長期戦略「リスボン戦略」の中間レビューで、「科学知識に基づくバイオエコノミー」が提唱されたことを皮切りにバイオエコノミーへの取り組みが始まったとされています。その後も、ドイツ、ベルギー、デンマーク等のEU理事会議長国が同分野を度々取り上げるなど、EUでは重要なテーマとなっています。
さらに2012年、欧州委員会がバイオエコノミー戦略を制定。それ以降、EU諸国を中心にバイオエコノミーに関する国家戦略を発表する国が増加し、現在は世界全体での取り組みとなっています。
日本では、2019年にバイオ戦略を制定しました。これは、「2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現すること」を目標とし、産学官連携で経済成長と気候変動や社会課題の解決に向け、バイオ関連市場の拡大に向けた取り組みを推進しています。2024年6月3日に統合イノベーション戦略推薦会議において、2030年に向けたバイオエコノミー拡大に向けた方策をとりまとめ、「バイオ戦略」の名称を改めた「バイオエコノミー戦略」が決定されました。
バイオエコノミーの市場規模
バイオエコノミーは今後の大幅な市場規模の拡大の可能性を秘めています。OECD (経済協力機構) は、バイオエコノミーの世界市場は、2030年に約200兆円まで成長するとしています。
2003年時点では、バイオエコノミー市場全体の87%を健康・医療分野が占めていましたが、技術進歩によって、食品や農業、工業など、幅広い産業領域にも広がると期待されています。
なお、日本ではバイオエコノミーについて、2030年までに官民合わせて年間の投資規模を3兆円に拡大するとしています。また、アメリカでは、Googleやマイクロソフトなどのソフトウェア関連企業がバイオベンチャーに積極投資を行っており、今後も世界で大幅な市場規模の拡大が見込まれます。
バイオテクノロジーの活用が期待される産業
近年、代替肉や培養肉などをはじめとして食品・農林水産業、環境・エネルギー産業、化学産業等、幅広い産業で活用されています。
サーキュラーエコノミーは、これまでの大量生産・大量消費ではなく、資源を循環させることで地球への負荷を軽減する経済を目指します。一方、 バイオエコノミーは、生物の力を借りながら自然と共生する経済を目指しています。つまり、サーキュラー・バイオエコノミーとは、自然と調和しながら私たち人間も豊かになれる持続可能な経済のことを指します。
サーキュラー・バイオエコノミーの実践
フィンランドに本拠を置く国際科学組織である欧州森林研究所(EFI)は、サーキュラー・バイオエコノミーのための10項目の行動計画を発表しています。同研究所は、自然環境と経済の両立を実現するには、土地や食料、健康や産業構造の全体的な変革・管理にあたって、サーキュラー・バイオエコノミーへの移行が重要だとし、以下の10項目の行動を提唱しています。
- 持続可能なウェルビーイングに焦点を当てる
- 自然と生物多様性に投資する
- 繁栄のための公平な分配を生み出す
- 土地・食料・健康システムを全体的に再考する
- 産業部門を変革する
- 環境に配慮した視点で都市を再考する
- 有効な規制の枠組みを作成する
- 投資と政策においてミッション重視のイノベーションを提供する
- 資金へのアクセスを可能にし、リスク対応力を強化する
- 研究と教育を強化し、拡大する
サーキュラー・バイオエコノミー取り組み事例(海外)
ここからはサーキュラー・バイオエコノミーを推進しているThe Circular Bioeconomy Alliance(サーキュラー・バイオエコノミー アライアンス)が発表している事例を紹介します。
サーキュラー・バイオエコノミーアライアンスは、2020年にイギリスの国王チャールズ3世によって設立されました。同アライアンスは、世界全体で生物多様性を回復させながら、サーキュラー・バイオエコノミーを推進します。また、投資家、企業、政府・非政府組織や地域コミュニティを結び、知識に基づく支援だけでなく、学習とネットワーキングのプラットフォームとしての役割も果たしています。
インドネシアのマングローブ再生
サーキュラー・バイオエコノミーアライアンスが既に行っているプロジェクトの一つに、インドネシアのマングローブ再生プロジェクトがあります。同プロジェクトは、2017年にインドネシアのスマトラ島で始まりました。マングローブ林を再生・保護することは、生物多様性の保全や気候変動対策、海外線の保護などに繋がります。同プロジェクトは、2019年から2022年の間で合計100万本のマングローブを植林し、コミュニティ意識の向上や女性の参画や能力開発など、地元の地域社会に経済的な機会も提供しました。
サーキュラー・バイオエコノミー国内企業の実践
代替肉の広がり
代替肉は、畜産業による環境問題や人口増加に伴う食糧不足、健康志向の高まりから、近年急激に注目されています。
地球温暖化の原因とされる温室効果ガスは、工業分野だけでなく、畜産業からも多く排出されています。家畜のおならやゲップ、排泄物の管理、飼料の生産など、畜産業全体で温室効果ガスが発生しています。特に、家畜のおならやゲップに含まれるメタンガスは、二酸化炭素の28倍の温室効果があると言われます。
また、家畜の放牧や飼料生産には広大な土地が必要です。広大な土地を確保するために森林伐採が行われると、森林減少やその土地の生態系にも影響を及ぼします。
さらに、世界人口は2030年までに85億人に達し、2050年には97億人に増加すると予測されています。2050年の世界の食肉消費量は5.1億トンと現在の約2倍に拡大するとされており、世界的な食糧不足が問題となっています。
これらの課題を解決する手段として、代替肉への期待が高まっています。代替肉は通常の鶏肉1kgを生産する場合と比較して、92%もの温室効果ガスを削減する効果があります。日本におけるプラントベースフードや代替肉の動向は世界に比べて遅れをとっていますが、2030年には市場規模が800億円ほどに達すると予想されています。
多くの日本企業が代替肉市場に参入
多くの食品メーカーやスタートアップ企業が代替肉市場に参入し始め、以前はスーパーの隅に置かれていた代替肉製品も、今では精肉売り場にも並ぶようになってきました。
最近では、風味や味の工夫が施された製品や、持続可能性や環境への取り組み、健康性に焦点を当てた製品など、各ブランドが独自の差別化を図っています。
スーパーで買える大豆ミート
スーパーで手に入る大豆ミートには、マルコメの「大豆のお肉」シリーズや「惣菜の素」があります。マルコメは、味噌や麹商品を展開し、発酵技術を強みとしています。
食卓に新たな提案として、「大豆を手軽に楽しく食べる」というコンセプトで、代替肉や大豆を活用した商品を展開。大豆のお肉シリーズには30種類ものバリエーションがあり、乾燥からレトルト、さらには冷凍タイプまで幅広く取り揃えています。
株式会社ユーグレナの取り組み
株式会社ユーグレナ(以下、ユーグレナ社)は、2005年に微細藻類ユーグレナの屋外大量培養に世界で初めて成功し、その後、ユーグレナを活用した様々な事業を展開。現在、ユーグレナ社はヘルスケア事業とバイオ燃料事業を中心に、サーキュラー・バイオエコノミーに貢献しています。
ユーグレナ(和名:ミドリムシ)は、ワカメと同じ藻類で、5億年前の紀元前から存在する生物です。ユーグレナは動物の特徴として自己運動があり、同時に光合成によって栄養分を作り出す植物の特性を持ちます。その豊富な栄養素と優れた光合成能力から、食料問題やCO2削減など多岐にわたる問題解決の可能性が探られており、世界各地で研究が進められています。
ヘルスケア事業
ユーグレナ社のヘルスケア事業では、ユーグレナを用いたパウダーやサプリメント、ドリンクなどの製品を提供し、日常的に手軽に栄養補給が可能です。また、「ユーグレナGENKIプログラム」を通じて、バングラデシュの子どもたちにもユーグレナを届ける取り組みを行っています。
バイオ燃料
バイオ燃料事業では、ユーグレナの培養技術を活かして良質な油を生産し、それをバイオ燃料として利用しています。「サステオ」というユーグレナ由来のバイオ燃料は、2020年に供給が開始され、日本国内でバスやフェリー、電車、飛行機など、陸海空のモビリティへの利用が拡大。これにより、二酸化炭素の排出量を実質的にゼロに近づける効果が期待されています。
今後、需要が拡大する見込みのあるバイオ燃料を安定的に供給するために、ユーグレナ社では持続可能な原料の確保に向けた技術開発が進められています。
最後に
サーキュラー・バイオエコノミーに注目すると、経済成長と自然調和を目指す世界や日本の動きが見えてきます。代替肉がそうであるように、その動きは私たちの身近なところに浸透し、選択肢の一つとなってきました。技術開発段階の事例も多く、コスト高などの課題がみられるものの、着実に市場拡大の動きを見せています。サーキュラー・バイオエコノミーの推進は、今後数多くの分野で大きな注目を集めていくでしょう。
参照:
The Circular Bioeconomy Alliance
New Action Plan puts nature at the heart of the economy