野菜や果物のアップサイクルに取り組む海外企業|取り組みを紹介
私たちが普段食べているものはお店に綺麗に陳列されたもので、その食材の裏で何が起こっているのかを知る機会はあまりありません。「食」にまつわる課題にはさまざまなものがありますが、特にフードロスは地球温暖化にもつながっている深刻な問題です。
食品ロスの問題
「食品ロス」とは、本来食べられるにもかかわらず廃棄される食品のことを指します。具体的には、形が不揃いなどの規格外品や賞味期限切れの食品、売れ残った生鮮食品や惣菜、飲食店や家庭での食べ残しなどが該当します。
世界全体では1年におよそ13億トンもの食品ロスが発生しており、FAO(国際連合食糧農業機関)の報告書によると、これは世界で生産される食糧の3分の1を占めています。
農林水産省の2022年6月のデータによると、日本の食品ロスの発生量は5年連続で減少しており、2020年度には522万トン(事業系275万トン、家庭系247万トン)となっています。減少傾向にあるものの、これを身近な数字で捉えてみるとどうでしょうか。
国民1人あたりの食品ロス量は、1日約113gに相当します。これは、茶碗1杯分のご飯が約150gであることを考えると、毎日1杯分程度の食品を捨てている計算になります。
さらに、年間で換算すると41kgにもなります。これは、一人あたりの年間米消費量約53kgに近い量です。驚くべき数字です。
このような状況の中でも、事業系食品ロスは2012年の計測開始以降、徐々に減少しており、過去最小の数値となっています。これを受けて、農林水産省はまず食品廃棄物の発生を抑えることを最優先に呼びかけています。その上で、発生した廃棄物の再利用や有効活用を進める方針を示しています。
食品ロスとして廃棄されたものは、もったいないだけではありません。日本国内の場合、ゴミの約8割が焼却処分されていますが、廃棄される食品の多くは水分を多く含んでいます。水分が多いと燃えにくく、より多くの温室効果ガスを排出してしまいます。その結果、地球温暖化がさらに進んでしまうという悪循環が起こっています。
日本でも食品ロスに対する取り組みが行われています。
廃棄食材から生まれるエコ素材とは?
食品工場での製造過程で生じる廃棄食材を、粉砕・乾燥などの処理を施し、動物のエサや肥料に転換する取り組みが広がっています。廃棄物を「資源」として再活用し、循環型のエコ素材として生まれ変わらせる動きが進行中です。
今回は、卵殻やお茶殻、サトウキビやコーヒー豆の絞りかすなど、これまで廃棄されていた食材をリサイクルして作られる「エコ素材」について紹介します。
廃棄食材を活用したエコ素材の例
- コーヒー豆かす
- お茶殻
- 野菜・果物の規格外品
- 廃棄米
- 卵殻
- 麦芽かす
- サトウキビの絞りかす
- カカオの皮
コーヒー豆かす:速乾性・消臭効果
日本では、年間43万トンのコーヒー豆かすが廃棄されていますが、豆かすには高い脱臭・消臭効果と速乾性が期待されています。そのため、ファッションウェアやアウトドア用品などに活用され、独特の質感が魅力を高めています。
茶殻の抗菌・消臭効果
日本では、茶殻を使ったリサイクルにも注力しています。特に『伊藤園』は、茶殻のリサイクルシステムを構築し、茶殻を配合した抗菌・消臭効果のある製品を多数開発しています。段ボールや畳、ベンチなど、茶殻を活用したエコ素材が日常の製品にも取り入れられています。
廃棄される野菜・果物のリサイクル
形や色が基準を満たさない規格外野菜や果物、皮や芯などの不可食部を使ったリサイクルも進んでいます。『東京大学生産技術研究所』では、廃棄食材をフリーズドライし、水を加えて熱圧縮することで、生活雑貨や建築資材に再利用できる新素材を開発。強度も高く、持続可能な資源活用が期待されています。
廃棄米の再利用
米の消費量が減少する中、廃棄米の活用も課題となっています。『バイオマスレジンホールディングス』が開発したバイオマスプラスチック「ライスレジン」は、石油系プラスチックの代替素材として環境にやさしい選択肢として注目されています。
サトウキビの絞りかす「バガス」の再利用
サトウキビの搾りかすである「バガス」は、アパレル素材として活用が進んでいます。『Rinnovation』は、バガスを和紙に加工し、デニム生地にすることで、沖縄のかりゆしウェアとして製品化しています。
カカオのリサイクル
チョコレート製造で廃棄されてきたカカオの果肉や皮も、近年ではリサイクル・アップサイクルが進んでいます。これにより、環境負荷を減らし、カカオ農家の経済的支援にもつながる取り組みが進行中です。
廃棄食材をエコ素材として再生する取り組みは、資源の有効活用と環境保護に貢献しています。今後もこれらの技術が進化し、日常生活にさらなる変革をもたらすことが期待されています。
規格外野菜の新たな活用法で食品ロス削減
規格外の野菜や果物がバッグやクレヨンに生まれ変わり、フードロス削減に貢献しています。市場の基準から外れた「規格外野菜」は、形や色が基準を満たさないために廃棄されがちです。農林水産省の調査によれば、収穫量の約20%が規格外として廃棄されています。
しかし、昨今のSDGsの取り組みの中で、国内でこれらの規格外野菜を有効活用する方法が広がっています。主な活用方法は以下の4つです。
1. ECサイトや直売所での販売
「食べチョク」や「らでぃっしゅぼーや」などで、規格外野菜が直接消費者に販売されています。廃棄される予定の野菜を安価で購入できるサービスも増加中です。
2. 加工食品として利用
ジュースやゼリー、カット野菜など、規格外野菜を使った加工食品が増えています。例として、千葉県で廃棄予定の梨から作られたシードルや、野菜を海苔状に加工した「ベジート」があります。
3. フードバンクへの寄付
規格外野菜が、生活困窮世帯や福祉施設に寄付される活動も広がっています。フードバンクは食品ロス削減の一環として重要な役割を果たしています。
4. 食料品以外の加工品
規格外野菜から作られる「フルーツレザー」や「おやさいクレヨン」など、日用品としても活用されています。フルーツレザーはカバンや小物、クレヨンは子どもの安全性にも配慮された製品として注目されています。
廃棄される野菜を有効利用するこれらの取り組みは、環境負荷の軽減に大きく貢献しています。私たちが選ぶ製品も、持続可能な社会に向けた小さなアクションとなります。
海外事例
ここからは、廃棄されてしまう野菜やフルーツをアップサイクルして価値を与えている海外の企業と研究の事例をそれぞれご紹介します。
Ottan Studio
トルコ発のスタートアップ企業Ottan Studioでは、本来廃棄されるはずだった規格外の野菜や果物、賞味期限の切れた穀物などを地元の生産者や自治体から譲り受け、洗浄、乾燥、粉砕し樹脂と混ぜ合わせ、インテリア製品にアップサイクルしています。Ottanは一本も木を切らずに環境にやさしい照明やオブジェなどを製造しています。
製品には野菜や果物をそのまま使用しているので、人工着色料などは使用していません。
左のベーシックな白色は消費期限が過ぎてしまったお米から作られています。右の黒色の素材はコーヒー豆の外側部分を使用して作られています。
他にもオレンジの皮を使用したもの、期限の過ぎてしまったレンズ豆など、さまざまな材料を使用してカラフルな素材を生産しています。
耐久性も兼ね備えているので、木材や大理石などの資源を消費する必要がなく、環境への負荷も最小限で済ませることができます。
シンガポールで開発されたドリアン由来の絆創膏
シンガポールでは、年間約1200万個のドリアンが消費されていますが、それだけ多くの皮が捨てられていることを意味します。さらにドリアンの60%は殻の部分が占めており、焼却処理されるときに環境汚染を引き起こしてしまうという問題がありました。
2021年3月、シンガポール南洋理工大学(NTU)は、フルーツの王様と呼ばれるドリアンの皮から抗菌ジェル絆創膏を作ったと発表しました。
傷口を保湿することで傷跡が残りにくくなるジェル絆創膏ですが、従来のものにはポリマーなどの合成素材が使用されています。しかし、NTUの開発したジェル絆創膏は無毒かつ生分解性なので、従来のものより環境負荷が小さいと予想されています。
最後に
いかがでしたでしょうか?
食品ロスは世界全体で取り組むべき深刻な課題ですが、なかなか私たちの目に届くことがありません。
また、食品をアップサイクルしても加工食品などになることが多く、それらが消費されなければ結局廃棄されてしまうという問題も抱えています。
しかし今回ご紹介した事例のように、食品をインテリアや絆創膏に変身させることできちんと消費者に届けられ、消費者もまた環境にやさしい選択ができるようになります。
今後もこのような商品が増えていくことに期待していきたいと思います。
参照:
農林水産省:食品ロスの現状を知る
OTTAN
NTU Singapore scientists develop antibacterial gel bandage using durian husk
These scientists are making antibacterial bandages out of fruit waste