BOPビジネスで企業が貧困問題に挑む|注目される理由や成功事例は?
現在、世界で問題となっている貧困や飢餓、所得格差の解決策として、BOPビジネスが注目されています。
BOPビジネスは、ボランティアや寄付といった形ではなく、ビジネスの力を使って根本的な問題解決を目指すビジネスモデルです。企業としての利益を追求しつつ、社会問題の解決も目標としています。
本記事では、BOPビジネスに取り組んでいる日本企業の成功事例や、現地の調査不足による失敗事例もご紹介します。
BOPビジネスとは?
BOPビジネスとは、貧困層に向け、生活改善を目指した製品やサービスを提供するビジネスモデルのことです。
BOPはBase of the Economic Pyramidの頭文字をとったもので、世界の貧困層をあらわしています。具体的には、年間の収入が約3,000ドル(約40万円)以下の人々を指します。この層の人々は、多くの国で生活の質が低く、基本的なサービスや商品へのアクセスが限られている状況です。
一方で、BOP層は世界中で約40億人が該当する、大きな市場ともいえます。1人当たりの購買力は低いものの、彼らの状況が経済成長や社会の安定に大きな影響を与えるため、世界中で注目されています。
企業や政府が、BOP層の人々に焦点を当てた商品やサービスを提供することで、彼らの生活を改善しつつ、新しい市場を開拓することが可能です。
BOP層に向けたビジネスとして、たとえば、低価格の携帯電話や教育プログラムなどが挙げられます。これらの商品やサービスがBOP層に普及すれば、情報や教育へのアクセスが増えるため、経済的にも社会的にも大きな前進が期待できます。
だからこそ、BOPは世界の貧困問題を解決するための重要な概念として注目されているのです。
BOPビジネスの重要性とは?
BOPビジネスの重要性は、社会的課題の解決と経済成長を同時に達成する点にあります。
通常の市場から考えると、BOP層は購買力やブランド認知力が低かったり、アクセスが難しかったりと、無視される要素が多いです。
しかし、BOP層は世界人口の約40億人が該当する巨大なマーケットであり、適切な供給をおこなえば、新たな需要を生み出すことになります。既存の富裕層や中間層に比べて、未開拓の購買層へのアプローチに繋がります。
BOP市場が注目される理由は?
企業や社会全体にとって魅力的な市場としてメリットが多く、ビジネスチャンスと社会的貢献の両面から注目されています。
BOPビジネスは、貧困や不平等といった社会的課題の解決に貢献しながら、企業も利益を上げることが可能です。
BOP層が抱える課題(教育不足、医療の欠如、食糧不安など)に対して、企業が製品やサービスを提供することで、貧困の減少、社会の安定に繋がります。
企業のメリットとして、社会的責任を果たしつつも、利益を得られることが特徴です。社会問題を解決することは、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた取り組みとも言えるでしょう。
利益追求だけでなく、SDGsの達成も含んだプロジェクトに展開できるため、企業の社会的価値を高めることが期待できます。
BOPビジネスは営利目的?
BOPビジネスのユニークな点は、営利だけでなく、社会的な課題を解決することも目標としていることです。
たとえば、貧困層がアクセスしやすい価格で商品やサービスを提供することで、企業は利益を得ながら、同時に貧困削減や生活改善に貢献します。企業は通常のビジネスと同様に利益を追求しますが、その過程で社会に良い影響を与えることが求められます。
また、BOP市場では「低価格で大量に販売するビジネスモデル」が必要です。そのため、コストを削減しつつ、価値のある商品やサービスを提供する工夫が求められます。
ただ単に営利目的でおこなうビジネスモデルではなく、社会的責任(CSR)の観点からも企業のブランドイメージ向上を期待できるため、他の市場でもプラスの効果を生むことがあります。
日本企業のBOPビジネス成功事例
BOPビジネスは日本でも注目されており、味の素やヤクルトといった大手企業も参入している事業です。
政府機関の協力や支援を受けられることもあり、企業を超えた大型プロジェクトとしての発展が期待できます。さまざまな団体とパートナーシップを結ぶことで、社会問題を解決するだけでなく、企業としてのイノベーションにも繋がる可能性が高いです。
BOPビジネスにおける日本企業の成功事例をご紹介します。
味の素
味の素株式会社が手掛けたBOPビジネスは、2009年にガーナで開始した「栄養改善プロジェクト」です。
ガーナは経済発展し続けている国ですが、低身長・低体重のような乳幼児の発育不全が社会問題としていまだ残っています。この問題は、生後6ヶ月以降の乳児に対して、発酵とうもろこしを使ったKoKo(ココ)と呼ばれる離乳食を食べさせる、ガーナの伝統的文化が関係しています。
KoKoは伝統的な離乳食であるにもかかわらず、体を作るうえで欠かせないエネルギーやタンパク質が不足しており、子どもの発育を遅らせる原因となっていました。
そこで、味の素は「離乳期における栄養改善プロジェクト」を立ち上げ、ガーナが抱える発育不全の問題解決へと挑戦します。
KoKoにタンパク質やアミノ酸、ビタミンなどのサプリメントを加えることで、子どもの発達に必要な栄養素を補い、健全な発育の促進に大きく貢献しました。
味の素は、JICAから開発支援調査の事業として選ばれたり、アメリカの国際開発庁から支援金やノウハウを受けたりと、数々の団体とパートナーシップを締結。一企業だけの取り組みではなく、大規模な社会問題解決プロジェクトへと発展しました。
株式会社ヤクルト本社
海外での収益が営業利益の半分以上を占めており、とくにアジアやオセアニアといった低所得者層の多いBOP市場で支持されています。
乳酸菌飲料のパイオニア的存在であるヤクルトは、1964年の台湾進出を足がかりにアジアへ進出。ヨーロッパ、オーストラリア、中南米へと世界中に販路を拡大していった結果、現在では日本を含めた40の国と地域で販売しています。
ヤクルトは購入者の多くを占める主婦層にターゲットを絞り、親しみやすい存在としての「ヤクルトレディ」を起用することで売り上げを伸ばし、雇用も創出してきました。
売り上げ拡大と雇用創出のノウハウをBOPビジネスにも取り入れ、日本と同じように現地の女性をヤクルトレディとして採用。広告費をかけなかったにもかかわらず、現在、約4万7,500人のヤクルトレディが海外で活躍しています。
ヤクルトレディの取り組み以外にも、徹底した現地主義によって業績が伸びているのも特徴です。
現地の生活文化や食習慣に応じた情報発信をはじめ、予防医学に関するシンポジウムの開催を通じて、地域の人々の健康に貢献しています。
サラヤ株式会社
サラヤ株式会社は「ヤシノミ洗剤」をはじめ、さまざまな日用品・衛生製品を扱う大阪の企業です。1952年に創業し、日本で初めて薬用手洗い石けん液を開発しました。
「石けんを使った正しい手洗いを普及させ、衛生環境を改善する」といった創業者の想いを引き継ぎ、BOPビジネスを通してアフリカ・ウガンダでの衛生環境改善に取り組んでいます。
2010年に「100万人の手洗いプロジェクト」がスタート。対象製品の売り上げ1%を寄付するといった形で、ユニセフの手洗い促進活動を支援しています。
2011年5月には現地法人「SARAYA EAST AFRICA(サラヤイーストアフリカ)」を設立し、「病院で手の消毒100%プロジェクト」も開始しました。
サラヤのBOPビジネスは、雇用を生み出しながら社会課題を解決し、現地生産を実現した「持続可能なビジネス」として注目されています。
アルコール手指消毒剤の製造において、現地での原料調達を心がけています。その結果、地域農家の収入を向上させただけでなく、生産・物流に携わるスタッフの雇用までも生み出しました。
現地生産を追求したことで、ウガンダの一般消費者にも購入しやすい価格での販売を実現しています。
BOPビジネス失敗例
BOPビジネスでは、現地のニーズ・状況をしっかりと把握していなかったり、日本のやり方を押し付けたりすることで、失敗するリスクが高まります。
売り上げ見込みや社会的意義が高く、事業展開として魅力的なビジネスではありますが、ナイキやヤクルトといった大企業でさえも失敗する可能性があります。入念なビジネスプランが必要です。
ナイキ「ワールド・シュー」
ナイキは1990年代後半、中国で「ワールド・シュー」の展開を試みましたが、失敗に終わりました。
急増している低所得者層へのアプローチとして、高級ラインとは真逆の低価格ラインを作り出します。1足10〜15ドルと手の届きやすい価格に設定し、多くの人の好みに合わせたデザインに。
生産はすべて、既に中国で確立していた契約工場でおこない、流通経路も既存のチャネルを使用したため、販売に至るまでは順調でした。
ところが、付き合いだけで取引先を選んだり、既存のビジネスモデルをそのまま使用したりした結果、高級品の隣に「ワールド・シュー」を並べて販売することに。
ナイキの高級ライン購入者に「ワールド・シュー」は見向きもされず、本来のターゲットである低所得者層にまで届くこともなく、販売は頓挫しました。
新しい価値観を提案した「ワールド・シュー」でしたが、ビジネスプランは既存のものに頼ったこと、中国の低所得者向けのビジネスプランを考えていなかったことが失敗の要因と指摘されています。
BOPビジネスの成功において、現地のニーズや状況を考えることはとても大切です。
ヤクルトのフィリピン進出
成功例としてご紹介したフィリピンでの「ヤクルトレディ」進出も、プロジェクト初期の段階では一度、失敗しています。
元ヤクルトの専務取締役である平野博勝氏は、フィリピン進出が失敗した主な原因として「現地の人の価値観を理解できていなかった」と挙げています。
ヤクルトレディとして働くフィリピンの女性たちは、もらった給料をすぐに全部使ってしまいます。会社として集金したお金であっても、個人のお金だと捉えて使ってしまうため、会社としての売り上げは一向に上がりませんでした。
平野氏は事業を立て直すべく、押し付けていた日本のやり方を変え、現地の人に価値観をすり合わせました。
商品は1日分のみ販売員に渡し、当日の売り上げをそのまま銀行へ入金させます。入金した証拠を提出したスタッフにのみ、翌日分の商品を渡すという方法を取り入れました。
フィリピンでは当たり前に起きていた「代金未回収」を解消することで、ヤクルトレディのプロジェクトは軌道に乗ったのです。
まとめ
BOPビジネスの重要性や、BOP市場が注目される理由、さらには日本企業の成功・失敗事例をご紹介しました。
BOPビジネスは、貧困や飢餓、所得格差といった社会問題を解決しながら、企業が利益を追求できる新しいビジネスモデルです。ボランティアや寄付ではなく、ビジネスの力で根本的な問題解決を目指すため、SDGs達成にも貢献できます。
社会貢献と営利の両立を目指せる点が、BOPビジネスの魅力です。ぜひ自社の商品やサービスに取り入れてみてください。
参照:
Next4Billion
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